第15章 食事とお酒と媚薬
誰もが残念そうな顔をしているのが不思議に思ったのだけど、勘定をしては店を出た。
「エイリン・・・。」
「はい?」
私の視界に入って来たのは、熱が籠った眼差しを私に向けたリューさんの顔だった。
「体っ!?」
急に口を塞がれ、黙る様にジェスチャーを見せるリューさん。
「大丈夫ですか?」
小声でリューさんに声を掛ければ、頷いた。その事に安堵する。でも、何か様子がおかしい。視線を感じ振り返ると、女中の一人がこっちを窓越しに見ていた。
「行こう、エイリン。」
腰に腕を回され、馬車へと歩いていく。馬車に乗り込み気怠そうに息を吐くリューさん。
「リューさん?」
「・・・エイリン、帰ってから・・・抱いていいか?」
この時になって、リューさんから甘い香りが漂って来た。
「この匂いって・・・。」
「媚薬だろうな。一服盛っては、客を連れ込んでいたんだろう。一口で止めたが、余程濃度の高いものの様だ・・・。」
そう・・・家に戻って、私から美味しく頂きました。女も度胸である。気怠そうなリューさんだったけれど、明け方にはスヤスヤと眠っている。
私はアドレナリンが出て、妙に元気だった。いつもならこんな事はしないけれど、今回は特別だった。
「良かった・・・リューさんが、餌食にされなくて。」
「相手が、エイリンならいつでも嬉しい。」
「起きていたんですか?」
「今、目が覚めた。私を愛してくれて嬉しいよ。」
直接言われると恥ずかしい。今更だけど。
「リューさんが、苦しそうだったから・・・。」
「今度は、私からいいか?」
「えっ?まだ、媚薬が?」
「私を愛してくれた礼だ。お返しに私から、愛させてくれ。」
明け方だったのに、気付いたら・・・部屋の中は明るくなっていた。お互いに艶々していて思わず笑ってしまった。
「エイリン、ウチで作ってくれる煮込み料理があるだろう?あれを、伝授するのはダメか?」
私が作る煮込み料理とは、カレーライスである。リューさんも好きだけど、他の皆も気に入ってくれた。取り分け、ノアさんが食べ尽くす勢いで掻き込むほど。
因みに、私は前世の記憶からの知識なので、今はカレーのルウとして幾つか鞄にストックしてある。薬を作りながら、片手間にルウ作りも行っていた。