第13章 救世主
「ですから、こんな物騒なものをエイリンに向ければ、怖がるとどうしてご理解いただけないのでしょう。貴方たちの頭は飾りなのでしょうか。」
やれやれ、どうしようもない人ですねと小さな声が聞こえる。こんな状況なのに、アンドリューさんの様子は穏やかそのもの。
「アンドリューさん。」
「何でしょう、私のエイリン。」
甘さを含めたその声で、私の緊張は溶けそうだ。
「一部ではありませんよ?」
あれ、私・・・何を言おうとしてる?
「えっ?」
「あ、アンドリューさんの全てが私のものなら、私だって・・・私も・・・。」
内臓が飛び出すかと思うほど、強い抱擁をするアンドリューさん。一瞬、呼吸が止まった気がする。
「ありがとうございます。貴女との夜を味わってから、増々、私は貴女に恋焦がれて仕方ないのです。愛してます。私の全てを掛けて・・・この者たちは、この私自ら対処致しましょう。」
次の瞬間、私の視界に飛び込んで来たのは見慣れたアンドリューさんの家の中だった。
「え、エイリンっ!!」
「ルカさん?」
「良かった、無事だったんだな。本当に俺が付いていながらすまなかった。俺は護衛失格だ。」
顔色を真っ青にしたルカさんの手を握り締める。
「あんな多勢に無勢では仕方ないです。それに、私は無事でしたから。もし、アンドリューさんに怒られるのなら私も一緒に怒られますから。」
薬草の採取の時に現れたのは、イリル団長率いる統率の取れた団員たちが待ち受け居ていた。幾ら腕利きの人でも、難しい案件だったと思う。
「そんな事は・・・。ボスなら、簡単にっ」
ルカさんの言葉はノアさんに防がれた。
「余計なことを言うな。」
「それって、黒い悪魔と言われている事に関係しますか?」
二人が驚いて私を見た。
「知っていたのか?」
「詳しくは知りません。」
「俺たちからは何も言えない。知りたいならボス本人に聞いてくれ。」
「無理に聞きたいとは思いません。誰にだって言いたくないことの一つや二つはあるでしょうから。」
二人の顔が安堵する表情になった。アンドリューさんは、その日家には帰って来なかった。ただ、届いた文には後始末の為にお城にいると書かれていたのでホッとした。
無事ならいい。そして、家に戻って来たのは、私が拉致られた日から三日後の事だった。