第13章 救世主
「庇護を・・・されていただけではなかったのか?」
「違います。正真正銘私はアンドリューさんとお付き合いしています。」
「今の内に既成事実を作れば、何も問題ないかと。」
「そ、それもそうだな。では、早く部屋に連れていけ。」
ケルン副団長が私の手を掴みかけた時、指輪に嵌っている石から煙が溢れ出して来た。咄嗟に後退ったケルン副団長。
「それは、魔道具!!?」
どうやら、この指輪のことを知っているらしい。二人の驚きぶりからして、何か凄い魔道具なのだろう。煙は私の周りを取り囲み、やがてそれは人の形になった。
「あ、アンドリューさんっ!!」
「もう少し早い段階で、効果を発揮する様にするべきでしたね。せめて、私のエイリンの頬がこんなにされる前に。」
アンドリューさんは私の赤く腫れた頬に手を触れると、直ぐに痛みは退いて行った。
「お前が黒い悪魔・・・。」
「人聞きの悪いことを言わないで頂きたいですね。私のエイリンが怖がるでしょう?」
「今までのお前の行動の結果だろうが。おい、エイリン。この男だけは止めておけ。」
アンドリューさんが指を鳴らすと、イリル団長の口が縫い付けられた様に閉じた。
「人聞きの悪いことは言うなと申しましたが、ご理解いただけなかった様ですね。」
口調は何処までも柔らかく丁寧。でも、その眼差しは何処までも冷たい。
「エイリンと本当に・・・。」
「えぇ、貴方が思考する通りの間柄ですよ。」
こんな時でも、アンドリューさんは甘さを含んだ笑みを浮かべていた。
「エイリンの全てが愛おしい。そんなエイリンから愛を頂けるなど・・・私は本当に幸せ者です。」
アンドリューさんは、私を神か何かと思っているのかな?そんな高尚な立場ではないのだけど。
「残念でしたね。私の全てはエイリンのものですし、エイリンの一部でも頂けたのは私ですから。」
あぁ、こんな顔をするのか・・・ケルン副団長の歪んだ表情を初めて目にした私。
「では、これで引き下がらせていただきます。」
「そんな事はさせません。エイリンは私の妻となるんです。下がるなら、一人で下がっていただきます。」
剣を抜き、切っ先を私たちに向けた二人。でも、その剣は二人の手から弾け飛び壁に刺さった。