第13章 救世主
何処の部屋かは分からない薄暗い場所。ドアが開き入って来たのは、これまた見慣れたケルン副団長だった。そうか、団そのものがイリル団長の手先だったのか。
どうやら、私は全てにおいて騙されていたのか。いつか、神様に会える時があれば絶対にぶっ飛ばそうと決めた瞬間だった。
「後の尾行は問題ありませんでした。」
「そうか。お前は部屋で待っていてくれ。俺はエイリンと話しがあるからな。なぁに、直ぐに部屋に戻る。」
「分かったわ。それじゃ、また後でね。」
口付けを交わすと、この部屋から奥方は出て行った。再び、静かになった部屋。
「私をどうするつもりですか?」
「あぁ、何も変わらないな。あの薬を作り続けるだけで、エイリンは充分だ。あのボンボンに宛がう事は出来なくなったが、この先金が入り続けると思えば妥協できる。」
「どうしてそこまでお金を欲しがるのですか。」
「それをエイリンが知る必要はない。」
そこには、仮にも父親だと思っていた人の姿はなかった。私を金蔓でしか見ていないその目は酷く濁って見えた。
「もし、新しい恋人が欲しいのなら団員の誰かを紹介してやる。何なら、ケルンでもどうだ?」
「私なら、いつでも歓迎いたしますよ?」
ケルン副団長は私の傍に膝を付き、私の顎を掴んでは目線を合わせて来た。その瞳も、私は濁って見えた。
「ケルン、可愛がるのは自由だが、薬を作れなくなるほど抱き潰すのは許可出来ない。」
「えぇ、勿論、分かっております。ですが、新婚初夜だけは許可頂きたいですね。」
この人は何を言っているのだろう。
「上の部屋を使っていい。流石に、新婚初夜がこの部屋なのは可哀想だからな。婚儀の証明は俺が手続きをしておいてやろう。」
「ありがとうございます、イリル団長。」
私の意思なく、事が運ばれていく。
「本人の意思なく勝手なことをしないでください。」
そう言ったと同時に、私の頬に痛みを感じた。
「お前の意思などはどうでもいいのです。私の妻となったのですから、これからは私の言うことだけを聞きなさい。」
「嫌です!!私にだって選ぶ権利はあります。それに、私はアンドリューさんの恋人ですからっ!!!」
アンドリューさんの名を聞いた二人は、顔色を変えた。
「アンドリュー…あの、アンドリューがか?」
あの、とは?