第11章 ギャップ萌え
「止む無しだった。」
「左様でございますか。」
それはそれは綺麗な微笑みを浮かべるアンドリュー。あの高慢な高位の令嬢は目もくれなかったが、貴族界の令嬢からアンドリューが人気あるのは知っている。
私にも仲を取り持つ様に頼んで来た貴族もいた。しかし、アンドリュー自身が貴族と縁故にはならないと決めている。だったら、友人としても主としてもその意は汲んでやりたい。
それに変な貴族と縁続きになって、王家におかしい入知恵などされるのは拒否したい。
「あの下半身男・・・名前、何だったか。」
「・・・そうですね。」
すっかり頭から抜けてしまうくらい、下半身男で認識されている。
「あ、ジン=マーキュリーだったかと。」
「そうだったっけ。偉いな、リュー。ちゃんと思い出して。さ、今日も仕事だ。」
書類に目を通していると、アンドリューが思い出した様に口にした。
「14人と22人です。」
「何が?」
「愛人と子の数です。」
思わずペンを落とした。王族にとって愛人に産ませた子が22人とは、火種にしかならないだろう。
「直に、もう二人増える予定です。」
「お盛んなのだな。」
「だからこそ、下半身男の異名がしっくりくるのでは?」
王妃が今後、子を産んだとして・・・何の揉め事もなく後継者と出来るかどうか。
「もう一声言いますと、夜伽は出立するギリギリまで行われていた様です。」
「・・・アイツの仕事は子作りだけなのか?」
「さぁ?私には何とも。」
どうでもいい情報まで頭に入り、げんなりしながら書類処理を続ける。
もし、ここまで来たとして・・・エイリンが手に入らないと分かればどんな無理難題を言ってくるやら。
しかし、持てる力の限りを披露したらしいアンドリューの行動の結果が功を奏したのか・・・あの下半身男が我が国に入ることは無かった。
どうやら国境で暴れ水に巻き込まれ、行方知れずとなったらしい。捜索隊が組まれた様だが、行方知れずとなったまま。
責任をとマーキュリー国が我が国に言って来たが、強気で言い返すと大人しく引っ込んだ。どうやら、残された女子供の処遇のことで、それどころではないらしい。
「あの下半身男なら、どこかで根強く生きてそうだな・・・。」
「私もそう思います。忌々しい事ですが。」