第11章 ギャップ萌え
「まさか、一国の王太子のそれも婚約者がいるヤツが、わざわざ逃げた女性を引取りに来るとはな。国王たちは放任主義だ。その結果がこれなのだが・・・。」
「では、そろそろ私も出掛けて参ります。」
「家に戻るのか?」
「そうしたいのは山々なのですが、一足早い災害を起こしに行って参ります。」
あ、目の前から消えた。一足早い災害か・・・そう言えば、そろそろ雨季の季節だ。雨が何日にも降り続いて、あちこちで川が氾濫する。
領地には手を加えてあり、被害は最小限に抑えられる様に手筈は整えてあるが・・・きっと、国境付近で大量の雨でも降らすつもりか?
アンドリューの事だ、上手くやるだろう。私個人の意見とすれば、エイリンと上手くいけばいいなとは思っている。エイリンは若いが腕のいい薬師だ。
アンドリューの両親が病に耽った時は、たまたま手に入れられたエイリンの薬のお陰で治癒出来たのだ。そういう部分でも、恩を感じているのだろう。
一年前の蔓延した病気は酷い有様だった。あの時のエイリンの薬を鑑定すれば、神の庇護という素晴らしい効能があった。余程、信心深くて心優しい女性なのだろう。
そんなエイリンなら、アンドリューを大事にしてくれるかもしれない。アンドリューの心の内は知らせているのだ。その内、絆されてくれれば私も嬉しい。
アンドリューが戻ったのは、翌朝のいつもの執務の時間だった。少々、疲れた顔をしていたがいつもの何食わぬ顔をしている。
「首尾は上場というところか。」
「えぇ、勿論。少し疲れましたが概ね問題はありません。」
「疲れたのなら、エイリンから貰った薬があるのだろう?あれを飲めばいいではないのか?」
何故だ、何故そんな目を皿にして私を見る。
「そう仰るのであれば、ノーチェ様が大切に保管されておられますビスケットを食されると良いと思いますが?」
「・・・悪かった。」
ビスケットは、私の大切な婚約者から貰ったお手製の贈り物。毎日、少しずつ食べている。
「それで、アイツはそれでも来ると思うか?」
「えぇ、その様です。」
「まさか・・・様子見を?」
「もう手に入ったも同然の主張をされておられます。思わず馬車に火を点けそうになりました。それで、陛下はどの様な判断を?」
そうだった。父上にあの国とのことを聞いたのだ。