第11章 ギャップ萌え
「この書簡を見てみろ。あの下半身男からの文だ。」
そう言った私だったが、文の内容を見る前から想像していたのだろう。相変わらずの無表情で、その文を付け取っては目を走らせるアンドリュー。
「私の想像通りの内容で、期待通りと言うところでしょうか。」
その後は、文章の書き方が悪いなど指摘も多数並べるのはいつものこと。安定に辛辣である。有能だが、平民出の男である。王太子である私が、勝てなかった相手。
それでも、今は執事として傍においている数少ない信用に値する人物。始めは平民出を側用人になど反対の声が上がったのは当然のこと。
しかし、この男はその類い稀なる才能で存在感を周りに知らしめた。そして、王太子である私に対しても苦言を口にする唯一無二の相手。
そんなアンドリューも、今から数年前に貴族の令嬢から手酷い扱いをされ女性に対して心を閉ざしたのを忘れない。
要は、私に近付きたいが為にアンドリューを利用しようとした強かな令嬢だった。学園生活では、身分に関係ない規則だったのだが、大勢の目の前に平民出がと罵られたのを忘れていない。
そして、私に近付く為に踏み台になれ、または私との茶会のセッティングをしろなどいい様に悪態を付かれたアンドリューは完膚なきまでに正論で言い負かせた。
勿論、私にも選ぶ権利はあるし、心を寄せる令嬢もいる。その部分は、アンドリューの働きのおかげもあり無事に意中の令嬢と婚約することが出来た。
「それにしても、私のモノを返せなど・・・。」
おや、これは珍しい。どうやら、想像通りだったが故に腹立たしさは隠せないらしい。アンドリューは、エイリンの処遇に同情し庇護する相手だと認識していた。
でも、今はそうではないらしい。それもそうだろう。私やアンドリューを前にして同世代で頬を染めなかった女性は初めてだ。
その上、他意もない。一生懸命に生活を成り立たせようと努力するエイリンが、可愛くて仕方ない様だ。そう大きくはないが魔道具の粋を集めたあの家に、エイリンを庇護している。
「それで、この事をエイリンに知らせるのか?」
「えぇ、そのつもりです。」
どんな言い分で屋敷に囲い続けるつもりなのだろう。まぁ、そこのところはアンドリューがどうにかする。さて、問題はあの下半身男が想像以上にエイリンに執着していること。