第10章 落ちた聖人
前金として雇った輩は思ったよりいい働きをした。つまり、俺はエイリンを取り戻すことに成功した。こっそりと背後からエイリンに近付き、早々に意識を失わせその乱闘騒ぎから離脱した。
「やったっ、エイリンを手に入れた。このまま何処かの宿に身を隠せば・・・。」
何とか逃げおおせた俺は、エイリンを自分の妻だと言い宿を取った。久しぶりのエイリンは、あの頃と変わらず綺麗で嬉しさを隠せなかった。
直ぐにエイリンの胸元にあるリボンを解き、このまま自分のモノにしようと行動を起こす。しっかりと縛られたリボンに苛立ち、最後にはそれを引きちぎった。
エイリンの白い柔肌が目に飛び込んで来た。そうだ、ずっと手に入れたかったこの白い柔肌。俺のものだ。俺だけのもの。
顔をその柔肌に近付け様とした時、何かの羽音と・・・首筋に冷たい感触。恐る恐る顔を上げ俺は直ぐに意識を奪われた。
その後、目が覚めれば・・・どこかの牢に入れられていた。同じく捕まったらしい、紹介された仲間たちもいた。
「目が覚めたのか。」
「ここは?」
「見ての通りの牢屋だ。俺たちはもう終わりだ。」
終わり?何故、終わりなんだ?俺はただ俺のものを取り戻そうとしただけだ。何も悪いことを・・・女を売ったことか?
「目を覚ました様ですね。」
そこには、全身真っ黒な男がいた。背も高く、その涼し気でいて鋭い視線は、人を殺せそうだ。
「エイリン自身が餌になると決めたから私は従いましたが・・・危うく、貴方を殺してしまいそうでした。」
悪魔だ。そうに違いない。エイリンは悪魔を召喚したのか?
「ど、どういう事だ。」
「貴方に浚われた風を装っただけですよ。そうでなければ、この私がそんな失態を犯すはずなどないでしょう。」
周りを見れば、誰もが恐怖で顔を引き攣らせていた。誰もが、この男の事を知っている様だ。
「エイリンは何処だ。エイリンは俺の女だ。」
「おや、婚約は随分前に破棄されたと聞いておりますが。夢でも見ておられるのでしょうか。」
何処までの余裕あるその物言いに苛立ちを覚える。
「う、五月蝿い!!いいから、エイリンを出せ。」
「犯罪者の貴方は、残りの人生を悔い改めながら罪を償わなければなりません。随分、自由にされてきた様ですから。あぁ、それと、最後の慈悲です。ご両親には、この事をお伝えさせていただきましょう。」