第9章 恩返し
いつかはここにも訪れるかもしれない。こんなに親切にして貰ったのに、それを仇で返す真似なんて出来ない。やはりここは、決断すべき時。
「この家は特別な魔法結界がありまして、一般の人では気付かれることはありません。ですから、ここに居る限り安全ですよ。」
「魔法結界・・・ですか?」
「えぇ、そうです。目くらましの結界を張っています。それと、ご存知ですか?住人も冒険者からも、貴女の薬に感謝していることを。」
アンドリューさんの目は優しかった。気を張っていた私が、ホッと一息を吐けるそんな表情だった。
「今、貴女を見捨てれば、私が住人にも冒険者からも叱咤されるかもしれません。それ程、皆が貴女の薬に感謝しているのです。勿論、この私も同じ気持ちです。」
「アンドリューさん・・・ありがとうございます。」
「それと、彼らがコレを私の元に持ってまいりました。」
アンドリューさんが見せてくれたのは、あの貴重で希少な結晶化した蜂蜜だった。
「城に在中している者の中には、魔物を使役することが出来るテイマーもおります。その者から説明を受けて、彼らの言い分を理解しました。貴女には、この町で居て欲しい様ですよ。」
「あのっ、彼らとは?」
「魔物である、キラービーストです。つまり、蜂の魔物の事です。」
蜂って、女王蜂とか言うからメスが君臨しているのかと思ったのだけど、この世界の魔物はそうではないらしい。そうか、一際大きかったのは王様だったのか。
「キラービーストの弱っている者を助けたのでしょう?あれは、キラービーストの王の子の様ですよ。」
「蜂の王子様って事ですか。」
「そうとも言えますね。」
その後、アンドリューさんから蜂さんに囲まれた事を話してくれた。幾ら腕に覚えがあっても、あの大群を一人で相手するのは無理だったと思ったそうです。
でも、一向に襲って来ない好戦的なキラービーストにテイマーを呼び状況を把握したのだと教えてくれました。良かったです、いきなり魔法を放ったりする人ではなくて。
「それに、一番の貴女の薬の愛好家はこの私ですから。あ、でも、貴女から直接頂いたあの薬は大切に保管しておりますのでご心配なく。」
愛好家って・・・あぁ、そうか。私の薬には滋養強壮の成分も含まれていたことを思い出した。アンドリューさん、いつも忙しそうですものね。