第9章 恩返し
「こんな綺麗な結晶化した蜂蜜を見たのは初めてだ。」
「きっと、恩返しをしたかったのだろう。」
そうか、蜂の恩返し。今は、蜂さんも恩を感じるのか。私も受けた恩はしっかり返そう。手始めに、アンドリューさんに何か恩返しをしよう。
町を散策していると、ある細工物のお店が目に入った。護衛は断わったのだけど、二人は通常運転で付いて来た。店内で目に入った細工物は、値札を見て肩を落とす。
(これを手に入れるなら・・・薬をどれだけ作ればいいんだろう?)
「エイリンも女だったんだな。ブローチを欲しがるだなんて。」
「ルカさん、それどういう意味ですか?」
「だってそうだろ?いつも泥だらけになって薬草採取してんのに。」
確かにそうだ。いつも私はそんな・・・そんな恰好しか、見せていない気がする。だって、元々が贅沢なんて出来るお金なんて無かったんだもの。
「痛っ!!何すんだよ、ノア。」
「お前はもう少し他人の気持ちを思いやれ。日頃面倒見いいくせに、こういうところは無頓着だよな。」
「いいんですよ、ノアさん。いつも泥だらけなのは事実ですから。それに、どうせ私にはこういうものは似合いませんしね。さ、お店に悪いので出ましょう。」
罰の悪そうな顔をしたルカさんだったけれど、私は気付かなかったフリをして店を出ては真っすぐに家に戻った。何か言いたそうな二人だったけれど、私は部屋に閉じこもった。
そろそろお暇する頃合いなのかもしれないな。居心地が良すぎて、随分甘えさせて貰ってしまった。お金なら少しは溜まったし、どこか誰も知らない何処かの町にでも・・・。
夕刻になって、いつものアンドリューさんの声と共にノックの音が聞こえた。ドアを開けると、アンドリューさんが目を丸くしていた。理由は、私が外出する格好だったからだろう。
「あのっ・・・。」
「先に私の話しを聞いていただけませんか?」
「えっ?あ、はい。」
咄嗟に捕まれた手に寄って、いつもなら入らないアンドリューさんの私室へと連れられて行った。ソファーを勧められ、私はそれに従った。
「新情報が入りました。セドリックが、地下牢から逃げ出したそうです。」
「えっ?ど、どうやってですか?」
「世話をしていた従業員の一人を誑し込んで、手助けをさせたそうです。エイリンの事も、その従業員から経緯を聞いている様ですね。」