第9章 恩返し
「貴女の存在は、決して迷惑ではありません。ですから、貴女が嫌だと思うまで・・・どうか、ここに居て下さいませんか?お願い致します。」
頭を下げるアンドリューさんに、私は驚いて直ぐに頭を上げる様に言った。
「私のお願いを聞いて頂けますか?」
「聞きますから、頭を上げて下さい!!」
頭を上げ私を見たアンドリューさんは、明確に安堵する表情を浮かべていた。そして、とんでもない事を言って来た。
「貴女が・・・私が思うくらいに、私を好きになって下されば良いのですが・・・。」
驚愕し過ぎて、何も言えなかった私。そして、アンドリューさんの頬は少し赤くなっていた。
「驚かれたでしょう。いきなり、こんなことを言われて。ただの初恋を拗らせた男の戯言だと思って聞いて下さるだけで十分です。決して、私は貴女の嫌がることは致しませんから。お約束します。」
この後、この家の執事であるネルさんからアンドリューさんの事を聞いた。平民だとは言え、あの能力であの容姿。そして、王太子の側近。故に、周りの女性から引手数多。
既成事実を作ろうと画策する者や、何とか身内に引き入れようと養子縁組しようとする貴族などをあしらうのが面倒ですっかり女性に言い感情を持てなくなったらしい。
何せ、アンドリューさん自身ではなく、アンドリューさんの後ろを見ているのだから。確かに、初対面でベタベタ触られたり抱き付かれるのは嫌だったし驚いたのだろう。
「それに、アンドリュー様はあの臭い香水が大の苦手でして。ですから、この家には目くらましの魔法が掛かっております。」
「大変だったのですね。」
「えぇ、それはもう。」
私はあんな高くて臭い香水なんて使えないし使わない。負け惜しみではなく、薬師故に自分好みの香水なら作る事が出来るから。
でも、執事のネルさんが臭い香水って言った。余程のことだったのだろう。さて、告白された様なものだったけれど、アンドリューさんはその後も何ら変わることはなかった。
暫くは、色恋沙汰は考えたくはなかったからホッとした。さて、セドリックの事。家柄から顔は広かった。きっと、そう先ではない未来にここを突き止めて来るだろう。
気が重いけれど、約束したから身をおかせてもらおう。そして、薬をアンドリューさんに献上しよう。日頃のお礼を兼ねて。