第1章 清算は旅の前に
二人の私への気遣いに涙が出そうになる。良かった、私の判断は間違いじゃなかった。
「もし、本気で国を出ると言うのなら紹介出来る人がいる。」
「えっ?」
「俺個人の意見は、腕のいい薬師のエイリンにこの町に残って貰いたい。でも、セドリックと決別するならこの国では住みにくい。」
貴族ではないものの、それなりに権力のある存在の家柄。確かに、住みにくくなるだろうな。だったら・・・。
「お願いします。」
「潔いな。分かった、ケルンあの人を呼んで来てくれ。」
「承知いたしました。」
直ぐに部屋を出て行ったケルン副団長。
「このまま国を出る事になるが、問題ないな?」
イリル団長とケルン副団長だけは、私の家のからくりを知っている。私は首から下げた家の鍵を握り締めた。
「はい。この鍵さえあれば、私は何処にだって行けます。」
「便利だよな。」
私は苦笑いするしか出来なかった。確かに、この鍵のことを知れば誰もが欲しがるだろう。広い場所で鍵に魔力を込めれば、家が現れるのだから。
この鍵は、私にしか扱えない。仮に盗まれたとしても、私の元に戻って来る魔法も付与されている。この鍵を用意してくれたのは、あの神様だ。流石、いい仕事をしてくれた。
「借り家の解約は俺がやっておくから安心しろ。」
「ありがとうございます。」
そう言えば、私がセドリックと縁を結ぶ時にもっと考えた方がいいと言ってくれたのはイリル団長だったっけ。あの時、もっとちゃんと考えれば良かった。
「イリル団長は、いつも正しいですね。」
「俺には、生きていればエイリンと同じくらいの娘がいた。流行病で呆気なく天に召されてしまったが、妻も同じ病に罹った時は・・・あの時、エイリンの薬に助けられた。その礼だと思ってくれればいい。」
「イリル団長は、この町での私のお父さんみたいでした。本当にお世話になりました。」
号泣してしまった私の頭を、ゴツゴツした大きな手によって撫でられた。温かくて優しくてホッとする、そんな手だった。
一頻り泣いた後、来客を知らせるノックの音と共にケルン副団長と見知らぬお爺さんが入って来た。何処からどう見てもお爺さん。身なりは整っているから、いいところの人なのだろう。
「イリル団長、話しは聞いたよ。か弱き娘が非道をとなれば、ワシは喜んで引き受けよう。」