第1章 清算は旅の前に
「世話になる。エイリンは私の娘のようなもの。どうか、よろしく頼む。」
「確かに頼まれました。では、行こうかの。直ぐに出立じゃ。」
「よ、よろしくお願いします!!」
「時間は有限じゃ。急ぐぞい。詳しい話しは、後でしようかの。」
詰め所の前には、大きな幌の付いた馬車が三台停まっていた。その内の一台に乗り込み、団員さんたちにも見送られながら馬車は走りだした。
「おぉ、あのボンボン余程嬢ちゃんに執心のようじゃのう。家の前で、待っている様じゃわい。あぁ、顔を出すでないぞい。見つかれば面倒じゃからな。」
私は身を固くしたが、お爺さんは楽しそうに笑っている。やがて、町を出ればお爺さんが声を掛けた来た。
「もう顔を出してもいいぞい。」
「はい。あの・・・ご迷惑をお掛けしてすみません。」
「構わんよ。ワシも、嬢ちゃんの薬に助けられた一人じゃからな。」
そう言っては、身の上話しをしてくれた。お爺さんは国を跨ぐ、大商人でかなりのヤリ手らしい。そんなお爺さんも、病には勝てなかったらしく一年前にジュピターに到着する前に寝込むことになった。
ジュピターに到着するなり、直ぐに薬を買おうとしたが店は売ってはくれなかった。と言うか、流行病で売れる薬が無かったらしい。
その時に知り合いだったイリル団長の計らいで、私の薬を提供し回復出来たのだと教えてくれた。丁度、イリル団長の奥さんが病に罹った時と同時期のこと。
ジュピターに来たばかりの私の薬を信じてくれた、貴重な人だったイリル団長。後から聞けば、藁をも縋る思いだったらしいのだけど。
団長ならば、何とか手に入れる事が出来たらしいが、部下の家族に譲ったらしい。中々やれることではないし、病に倒れた奥さんもそれでいいと言っていたらしい。
今は、団長の家に非常用として幾ばくかの薬を保管している。もしもの為の救急箱的なもの。傷まない様に、保存の魔法を掛けていると聞いた。
呆気ないものだなぁ、と離れていくジュピターの町を見ながら物思いに更ける私。何も思わない訳ではない。でも、私にあの貴族の令嬢を当たり前に押し付けようとしたセドリックを許せなかった。
そんなに困った人を助けたいなら、自力でやって欲しい。あの町は住みやすかったから永住しても・・・安易に決めるのは良くなかったなぁ。
まさか、一年で旅するなんて思わなかったけれど。