第7章 水面下
ヨゼフさんは、一つの建物を指さした。それは、城から北方に離れた一角にある真っ白な場所。
「あの人のお気に入りが囲われている場所だ。さ、早く決断しろ。俺の手を取るなら、確実に今なら逃がしてやれる。信用するしないはエイリンの自由だ。だが、もう一度だけ言う。チャンスは二度目はないと思え。」
自分の世間知らずさを悔やみ、だからと言って目の前の人を直ぐに信用していいかも分からない。この人の方こそ、悪人なのかもしれない。
「・・・分かった、逃げる意思がないのなら無理強いはしない。どんな結末になっても、決めたのはエイリンお前自身だ。あぁ、王妃になれるとか本気で思わない事だな。あの人には、表の顔となる貴族の相手がいる。」
確かに、相手は王子様だ。普通に考えれば、平民扱いの私なんて選ばれる筈などない。兎に角、逃げてみよう。後のことは、後で考えればいい。
「ヨゼフさん、お願いします。外に出たいです。それに、私は別に王妃になりたい訳ではないですよ。それと、詳しい事情を後でいいので教えて下さい。」
「いいんだな?」
「はい。」
ヨゼフさんが何かに気付き、私の腕を掴むと次に気付いた時には城下町の外れにいた。振り返れば、さっき私たちがいた大きなお城が遠くに見える。
「さ、ここから出るぞ。このマントを羽織っておけ。」
ヨゼフさんの行動は早かった。立場的に魔法でそのまま城外へとは行けなかった様で、他のヨゼフさんの仲間たちに紛れて城下町から出ることが出来た。
ヨゼフさんの外の顔は商人。でも、真実はこの国から離れた場所のある王国所属の魔法使いだった。その他の仲間たちも、騎士団所属だったりとそれなりに立場ある人ばかりだった。
近くの森に入ると、馬車から降りた。一体、何をするのだろうとヨゼフさんに聞くと、ある地点にまで飛ぶのだと言う。さっきのお城から外へ出た時の様なワープ的なものなのだろう。
「ヨゼフさんの所属する国に飛ぶのですか?」
「エイリンは、俺を殺す気か?そんな事をすれば魔力切れでぶっ倒れる。」
そう言うものなのか。本当に、今更ながら世間知らずだったのだと思わされた。
「ごめんなさい・・・。」
「いや、俺も言い過ぎた。詳しい話しは、落ち着いてからだ。さ、俺の手に捕まれ。」
次の瞬間、視界はさっきの森ではなくある小屋前に到着していた。