第6章 花を背負うとはこのこと
「町案内を私がしても?」
「いえ、町案内ならコトンさんにお願っ・・・」
「あまり遅くなりません様に、宜しくお願いします。」
どうやら、権力に逆らえなかったらしいコトンさん。
「ジン様、宜しいのですか?」
お爺ちゃんがそう尋ねたけれど、ジン様は花が綻ぶ様な笑みを讃えては頷いた。あぁ、そんな表情も絵になるなぁ。そして、背景の花は増した様に見える。
「エイリン、ジン様に町案内をして貰ってくれ。危険は及ばないと思うから、安心していいぞい。」
お爺ちゃんがそう言うならと、私は頷いた。しかし、この見目で町なんか歩いたらナンパされまくりなのでは?そんな事を思っていたのだけど・・・。
食事半ばに連れ出され、王族だと言うのにお供はいなかった。ジン様は私の頭一個半ほど背が高く、歩く度に絹の様な髪が揺れる。
「あぁ、そうだ。手を出して?」
右手を出せば、優しいけれどしっかりと握り締められた。見た目に反して、ゴツゴツした大きな手だった。
「はぐれると危険だから我慢して。」
「はい。」
素直に頷くと、また大輪の花を背に咲かせた。どうやら、ご機嫌らしい。
「どうしてもエイリンに会いたくて、食事中だったのに悪かったね。その埋め合わせはするから。」
何だろう・・・笑顔が伝染する。
「何とお呼びすればいいですか?」
「ジンで構わないよ。様も不要だ。」
ニコニコとして言われれば、肯定するしか出来なかった。
流石王都と言われるだけあって、町の中は活気に溢れていた。その中で出店に近付き、蒸しパンのようなものを買い求めては私に振舞ってくれた。
「王子様なのに、自分で買い物もするのですね。」
「視察も兼ねてね。」
お店の人も違和感なく、王子だと認識しつつも普通に売買していた。
「それに、食べ歩きまでするなんて。」
「こういうものは、直ぐに食べたほうが美味しいからね。エイリンも食べてごらん。」
勧められて齧り付けば、優しい甘みが口の中に広がった。
「美味しい。」
「気に入ってくれて良かった。そうだ、明後日、コリス殿と共に城に招待するから遊びにおいで。」
お城はそんな気軽に遊びに行ける場所ではないと思う。でも、微笑みの圧に負けてお爺ちゃんと同伴だと言うことで頷いた。
その時の嬉しそうな綺麗な笑顔ときたら・・・真紅の薔薇が辺り一面見えた気がした。