第1章 清算は旅の前に
一人暮らしで同性なんだし一人くらい増えても問題ない家の広さだろう?なんて、言葉も続けられた。今後、こんな風に良かれと思って人助けして、私に丸投げされてはたまらない。
何故、私が見も知らない女性の面倒を見なければならないの?助けた人が最後まで責任持ちなさいよ。それが出来ないなら、それはただの偽善でしかない。
それに、婚約者だから手助けして当たり前?生活するには、働かないと成り立たない。それを、この女性が理解しているとは思いにくい。
「ウチで他人を養う余裕なんてないわ。」
「そんな事ないだろう?そこそこ薬だって売れているし、一人くらいっ」
セドリックは、私が言った養うという言葉を否定しなかった。そうか、私にこの女性を養わせるつもりなのか。だったら・・・。
私は右手の薬指に嵌められた指輪に手を翳し、「解除」と魔力を込めれば指輪はスルリと外れた。これが、この世界での通常。
手を差し出したままのセドリックの掌に、外した指輪を乗せてこう言った。
「婚約者だから、こんな非常識な要求をされるのなら破棄させて貰うわ。それじゃ、さよなら。」
唖然としたセドリックをその場に残し、私は騎士団の詰め所に向かった。セドリックは、私を追っては来なかった。それが、彼にとって本意なのだろう。
元の世界でそれなりに恋愛もした私でも、この決断は間違っていないとは思っても気持ちがいいものではない。この世界の女性なら、思い余って・・・なんてことも聞いたりする。
「こんにちは、薬を届けに来ました。」
私が声を掛けたのは、騎士団のルダンさん。ゴリマッチョの見た目だけど、可愛いもの好きな面白い人だ。
「エイリンか、薬の納品か?ご苦労様。イリル団長なら、中にいるから入ってくれ。」
「お邪魔します。」
勝手知ったる騎士団の詰め所。騎士団のメンバーに挨拶しつつも、一番奥にある団長室のドアをノックしては声を掛けた。
少しして、部屋の中から重厚のある良い声で「入れ」と聞こえ私はドアを開けて中に入った。
「こんにちは、イリル団長。ケルン副団長もこんにちは。」
どうやら、二人で何かの打ち合わせをしていたらしい。
「いつもありがとう。」
「ありがとうございます。」
イリル団長と、ケルン副団長がお礼を言ってくれる。偉い人なのに、偉そうなことはしない良識ある人たちだ。