第5章 拾った権力者
「そうか・・・分かった。私はまだ遣る事があるので、ここで失礼しよう。だが、後日必ずこの恩を返したい。」
「いえ、お気になさらずに。」
笑顔で拒絶した私に、殿下の顔はショボンとした。あ、凹んでる。助けて貰うだけは嫌で、更に、その恩を仇で返してしまった事に余計に何か返したがっているのだろう。
でも、殿下なんて立場の人と関わって、絶対に良い事なんてない。面倒事が増えそうだ。
「孫娘もそう言っているので、気にせずともいいですぞい。」
怪我はさせられましたがねぇ!!?と、心の声が聞こえて来そうな圧のある声だったお爺ちゃん。
「俺に二言はありません。それと、せめて治癒だけはさせて頂きたい。」
「ワシの孫娘は可愛いですか?」
ん?お爺ちゃん、何を言うの?
「可愛い孫娘に近付こうとする不届き者が多くて困っております。」
あ、私に触るなって遠まわしに言ってる?治癒魔法って、直接肌に触れないといけないから?また、ショボンとした殿下。仕方ない、少し手助けしますか。
「私は薬師ですから大丈夫です。治癒魔法に頼り過ぎると、身体の治癒力が損なわれますから。」
あれ、どうやら私はトドメを刺したらしい。でも、私をジッと見詰めては、いきなり目の前で膝まづいた。その行動に、誰もが驚いた。
「どうやら、この俺も迷える羊らしからぬ不届き者になりそうです。所要が終わりましたら、必ず貴女の元へ馳せ参じましょう。それまでは暫し時間を頂きます。では。」
私の手の甲に、キスをしてはその場から消えて行った。
「お、お、お爺ちゃん!?今の何だったのっ!!!」
「すまん・・・焚きつけ過ぎたワシが原因かもしれん。じゃが、可愛過ぎるエイリンも悪い。ホレ、思い出してみろ。あの坊主と婚約する時、周りの娘どもは引き下がったと聞いておるぞい。」
「えっ?そんなの知らない。何で引き下がったのよ。」
えっ、何?その憐みが籠った目は。
「兎に角、さっきからエイリンばかり見ておった。」
「えっ、怪我した首を見ていたんじゃ?」
えっ、何?その気の毒さが籠った目は。
「そう言えば、あの坊主の時も同じじゃったか。面倒な相手にこそ好かれるのう。」
そんな事知りたくなかった。
「つまり、行き先はお爺ちゃんの住む町だと思ってるって事だよね?だったら、行き先を変更しようかな。」