第5章 拾った権力者
「ありがとう、お爺ちゃん。」
「大丈夫じゃ。接吻のことは、皆が黙っておれば問題ない。」
そう言いきったお爺ちゃん。周りを見回せば、誰もが頷いてくれた。これで一蓮托生である。
「それで、原因は何だったのじゃ?」
「ん?あぁ、毒だよ。」
パンに齧り付きながら答えると、お爺ちゃんは驚愕する表情を浮かべた。それから、助けた男性の事を話してくれた。
「毒を盛られたり、毒を受けたりする様なお方ではない。思慮深いお方じゃ。」
「誰かを庇った・・・とかかな。」
「それなら分からなくはないが・・・。」
国が栄え争いはなくとも、色んな考え方を持った人がいる。仮に仲が良くとも、全ての人が右に向いている・・・なんて、気持ち悪い。
「それに、国が穏やかでもだからと言って、一枚岩ではないでしょう?」
「エイリンは、たまに鋭い事を言うのう。」
何処でも、反対する人はいる。それに命を掛ける人だって存在する。まぁ、相手の事が嫌いだからって言う理由だけで反対する人もいるだろうし。
それでも、私には関係ない事。そういう結論に至った。
「それで、症状の方はどうなのじゃ?」
「毒はその内に抜けるけれど、力尽くまで行動したみたいだから暫くは起きないんじゃないかな。」
お爺ちゃんはホッとした顔をする。確かに、助けたもののやはり無理でしたなんて寝ざめが悪い。いや、ひょっとしたら嫌疑をなんて考えたら少し怖くなった。
「お爺ちゃん、どこか安全な場所に捨て、じゃなかった、預けられるところはないかな?」
「テンパって心の声が漏れている様じゃが、ギリギリ持ち直したと言うところかのう。それに、捨てる場所が安全だと言う言葉で、まだ理性は・・・。兎に角、ヴィーナス国に向かうかのう。」
どうやら、お爺ちゃんの伝手でヴィーナス国に到着するまでに何とか考えてくれる事になった。
しかし、誰かを庇っての怪我なのだとすれば・・・その人は、今も逃げたりしているのかな?そもそも誰に襲われたのだろう?
半日は起きないだろうし、若い男性だから体力切れでご臨終って事は考えにくい。さっきはあんな事してしまったけれど、立場ある人なら婚約者とかいるのでは?
だったら、余計にあんな事は知らせない方がいい。お互いの為にもなるし、もし、愛ある婚約をしているのなら相手も気の毒だ。