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【祓本】祓ったれ本舗の廻廻奇譚的日常

第1章 姉と弟




 車で10分の場所に彼女の勤める会社はあった。会社に着くまでの間、夏油はずっと気になっていたことを口にした。

「両親はどうしたんだい?」

 古民家とはいえ、一戸建てのあの家には両親と住んでいるような形跡はほとんど感じられなかった。ところどころに母の日に描いたであろうイラストや父のために書いた手紙などが壁や冷蔵庫に貼ってあったが、それ以外のものは見当たらなかった。五条も夏油も薄々感じていた、もしかしたらこの姉弟の両親は亡くなっているのではないか、と。それはどうやら正しかったようで、は消えそうな声で話し始めた。

「亡くなりました。父は殺され、母は自殺です」

 亡くなっているだろうとは思っていたが、まさか殺害と自殺だとは思わなかった二人は眉間に皺を寄せた。

「私が18になったばかりの時です。弟、悠仁は8歳でした。休日に母と弟と3人で遊びに行っていました。父は仕事だと聞かされていましたので。その日はすごく楽しくて『今度はお父さんとも来ようね』って3人で笑っていたんです。でも、家に帰って玄関を開けたら、父がそこに倒れていました。うつ伏せになって赤い液体を流して。床も壁も天井もあちこちに血が飛び散っていました。私は咄嗟に弟を自分の胸に隠しました。母親の泣き叫ぶ声が響いて、近所の人たちが集まってきました。警察や救急車が家の前にきて大騒ぎになりました。父は首の頸動脈や心臓など何度も刺されて殺されていました。……犯人ですか?犯人はまだ捕まっていません。はい、そうです。その日から母は精神的に病んでしまい、私は高校を中退しました。母親の側にいてやらなくてはと思ったのです。母を介護しながら弟の世話をしました。弟には寂しい思いをさせたくなかったので。そんな生活が2年ほど続いたある日、それは来ました。その日、母は台所に立っていました。たまに料理を作ってくれる日があるので、その日も気分で作りたくなったのだと思いました。母を手伝おうと声を掛けようとした時、母は自分の心臓に包丁を突き立てました。引き抜いた瞬間大量の血液が台所を染めました。私は呆然とそれを見ていることしかできませんでした。母は心臓から包丁を抜くと今度は首の頸動脈を刺しました。ああ、母は父のところへ行ってしまうんだと。母の返り血を浴びながら、そんな風に思いました」



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