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【祓本】祓ったれ本舗の廻廻奇譚的日常

第1章 姉と弟




 の話を聞いていた二人は、少女が"視える"人間だと確信し、「"ソレ"に触らなかったのは賢明だね」と夏油はバックミラー越しに少女に向かってそう言った。

「触っていたらもしかしたら君が孕んでいたかもしれない」
「……私が」
「でもそれは"かもしれない"っていう仮定の話であって、実のところ魅入られたのは弟の可能性もある。それは実際に見て見ないとわからない」

 長い足を組みサングラスをゆっくりと外す五条は、流れる景色に目を向けながら遠くを見つめる。整った顔立ちの横顔は真剣そのもので、青い瞳が何を映しているのか気になったが、は何も聞くことができず、結局自宅に着くまで車内は静かな時間が続いた。
 渋谷から来るまで約1時間半の場所に彼女の家はあった。閑散とした住宅街にぽつんと建っている古民家。築50年以上は経過しているであろう家の玄関のカギを開けた。今時珍しい鍵を押し込んで回すタイプのそれに五条は目を輝かせた。

「絶滅危惧種じゃん」
「悟、失礼だろ」

 失礼極まりない発言に夏油が五条を窘める。玄関の開く音と同時に引き戸特有の建付けの悪い音が響いた。その音にも五条は反応し「お化け屋敷に入るみたいな緊張感がある」という言葉に、「いい加減にしないか」と夏油は怒ったが、その声が若干震えていたのをは聞き逃さなかった。
 ぎしっと床の軋みが家中に響く。弟が寝ている居間へと案内される間、夏油は家の造りに興味津々の五条の手を引いて歩く。
 台所も電球も見れば見る程昭和の作りだ。きっと祖父母の代からずっとこの家に住んでいるのだろう。そう考えた時、ふと夏油の頭には疑問が過った。車内で話を聞いている間、両親について彼女は一度も口にしなかった。仲が悪いのか、それとも。そこまで考えた時、「ここです」とが今の引き戸を開けた。
 部屋の奥、縁側の近くに敷かれた布団の上に一人の少年が横になって眠っていた。規則正しく上下する胸、少しだけ開いた窓から吹くそよ風に揺れる短いピンク色の髪。ただの昼寝だと勘違いしてもおかしくないほど、穏やかでゆっくりとした空間が彼の周りに漂っていた。


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