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【祓本】祓ったれ本舗の廻廻奇譚的日常

第1章 姉と弟




 夏油が運転する車中、柔らかいシートに腰を下ろしたは五条に事のあらましを話した。

 弟が鬼の子を孕んだのは3日ほど前のことです。弟が鬼の子を孕んだのは私のせいなんです。実は私、職場でその、えっと、つまり、あの、あまりいい人間関係を築けていないといいますか……はい、そうです、簡単に言ってしまえばそうです、いじめです。といってもあからさまないじめではなく、悪口とかそういう程度で、別に気にしていなかったんです。でも、一週間前に会社の飲み会があって、いい感じに出来上がり始めた時、上司がポケットから木箱を出したんです。木箱にはお札が張ってあって、明らかに禍々しい雰囲気が箱の周りを囲んでいたんです。皆で気持ち悪いって騒いで、それでゲームをして負けた人がこの箱の中身を見て持って帰る、それだけのことだったのですが、絶対にそんなの持って帰りたくないって思ったんですけど、負けてしまったんです。
 中を開けると、柔らかい白い布の上に茶色い固まった何かが鎮座していました。一見すればただのゴミにしか見えなくて、周りも何だこれ、なんて言って緊張していた空気が一気に緩みました。でも私には分かったんです。私だけには分かったんです。これは開けてはいけない、見てはいけないものだったんだって。どこかに捨ててしまえばよかったのに、持って帰ってしまったんです。罰ゲームだからって、皆の目が怖くて。
 どうする事もできずに家に帰った後は、お札を張り直しました。今度の休みの日にお寺に持って行こうと思ったんです。でもそれがいけなかった。早くお寺に持って行けば良かったんです。3日前、弟がそれを見つけてしまいました。弟は好奇心が旺盛な子で、その日もその木箱を持って学校に行きました。きっとオカルト研究部の先輩たちや仲のいい友人たちに見せたくて仕方がなかったんだと思います。その日にお寺に持って行こうと思っていたんです。だから気づいたんです、木箱が無いことに。急いで弟の通う学校へ急ぎました。その道中です。弟が道端でしゃがみ込んでいました。苦しそうに表情を歪め息が上がっていました。弟の隣には空の木箱が落ちていました。空っぽです、あの時見たアレはありませんでした。そして弟は地面に倒れて、今は、ずっと、布団の上です。



















 どうか、弟を救けてください。


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