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【祓本】祓ったれ本舗の廻廻奇譚的日常

第1章 姉と弟




 五条悟。祓ったれ本舗の所長でありこのマンションの経営者でもある。彼の元には学校や仕事の悩み、ストレス、不安を抱えた人々が相談をしにやってくる。と言っても、相談者の悩みを聞くのは、従業員であり五条の右腕的存在でもあるお団子頭の男性―――夏油傑だ。その間、五条は机に脚を乗せて棒付のキャンディを舐めていたり隣の部屋で睡眠をとったりと自由気ままに過ごしている。
 しかし、時折こうして静かに椅子に座って相談事を聞く時がある。普通の相談とは一風変わった内容。そのどれもが今回のようなものだった。

「弟が"鬼の子"を孕んだ、ねぇ……」

 サングラスの奥の瞳が三日月の様に歪み、喉奥から笑い声が漏れる。
 ソファに腰を下ろしたは差し出されたコーヒーを見つめたまま一度だけ頷いた。

「一般的に男性は子供を孕むなんてことはあり得ない。それが例え異形であったとしても。……まぁこれは"一般的に"って話なんだけど」

 カップに注がれたブラックコーヒーの少し焦げたような深みのあるほろ苦い芳香が部屋中に充満する。はゆっくりとそれを口に含む。紙の上にインクを垂らして煮詰めたような味がした。熱くて濃くて苦くてまずい。勝手にお高い豆を挽いているのだと思ったが、これはただのインスタントだ。だけど少し気持ちが落ち着いたのはコーヒーがもたらす効能のおかげだろうと思っていた少女は、五条の手元見てを再び目を見開いた。ぼちゃぼちゃと音を立てて降下する白い塊の多さに引いてしまった。一つ二つ三つ……。スプーンで何度かかき回しコーヒーを飲み干す五条。胸やけを起こしているような気分になり、慌ててはまずいコーヒーを全て飲み干した。

「早速だけど、君の家を案内してもらおうか」
「え?」

 椅子から立ち上がった五条は、ソファに座ったまま動こうとしない少女に「ケツに接着剤でもついてんの?早く行くよ」と促しスタスタと玄関へ行ってしまった。慌てたように立ち上がり五条の後を追う。夏油もまた二人の後に続いた。


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