第5章 やっと追いついた!
「とりあえず、降りろ。」
イタチは私の肩をぐいっと押しながら退かそうとする。
「逃げない?」
ただで退くわけにはいかないのよ。
こちとらやっと掴んだ現物だもの。
イタチは少し考えた後頷く。
私はそれを見て、すっと解放した。
「何なんですか、あなたは。」
ざっざっと足音を立てながら鬼鮫が近づいてくる。
肩に大刀を掛けている体は、がっちりしていて大柄だ。
下から見上げると、不機嫌な顔も相まって怪物みたいな迫力がある。
「あー、自己紹介からした方がいい?」
私が首を傾げて尋ねると、
「やらなくていい。」
イタチがばっさり切り捨てた。
「でも、暫くはくっ付いてくよ?」
「は…?」
私の発言に怪訝な顔でこちらを見るイタチ。
「お前、何を企んでる?」
「イタチの体を治そうと企んでる。」
訝しげに問いかけるイタチに、考えてる事そのままを言ったら、益々目に険が宿った。
「誰の差金だ。」
「兄ちゃん。」
答えた瞬間、剣が宿った目が悲しみの色に変わる。
「ふざけるな!」
イタチが声を荒げたところを初めて見たかも。
睨んでるけど、瞳は傷ついたみたいに、泣き出しそうに揺れている。
鬼鮫は、黙って成り行きを見守っていた。
「ふざけてない。私は大真面目だよ。差し金って言うより、兄ちゃんとの約束って言った方が正確だけど。」
その目を見たら、やっぱり小さい頃に見たあの夢は正夢だったんだって思い知った。
あの出来事はイタチの心を凄く抉ったんだなって…。
夢の中で、兄ちゃんの背を押すイタチの手は震えていて、逡巡が痛い程分かったから。