第12章 懐かしい顔と新しい顔
「ゴン〜!ゴ〜ン!!」
ひょこっと草叢から顔を出した狐が一匹。
薄茶色が混ざる全体的に白っぽい印象だ。
ゴンって名前は私が勝手に呼び始めた。
由来は、前世で小さい頃に読んだ国語の教科書だ。
この子との出会いは森の中。
勤め先の病院に行こうと近道してる時に、罠に引っかかってるのを見て助けてあげたのがきっかけだった。
その場で治療して離してあげたんだけど、帰り道でもばったり会ってそれからの縁なんだよね。
「おいで〜。」
呼びかけに答えてとことこと駆けてくる。
しゃがんで食べ物を渡すと、こちらを見上げた。
『ありがとう。』
「どういたしまして。」
どういうわけか、私はこの子の言葉が分かる。
頭の中で響く感じって言ったら一番近いかな。
耳から聞こえる音じゃないの。
まぁ、嬉しいとか悲しいとかの単純な言葉が多いけどね。
そして、不思議と会話が成立するのよ。
「また来てるのか。」
「うん。」
イタチが私の後ろから声をかけた途端、しゅっと尻尾が丸まった。
「グルルル…。」
『来ないで…。』
「大丈夫だよ。イタチは何もしないから。」
言いながら頭を撫でると、唸り声をやめて、ちらちらとイタチを見ながらちびちびと肉を齧り始める。
「…何て言ってるんだ?」
「あー…怖いんだって。」
さすがに「来ないでって言ってたよ」とは言えない。
「何もしてないんだがな。」
心なしか、しゅんと沈んだイタチはちょっと可愛いかったりする。
「刷り込みみたいなもんだよ。慣れれば心開いてくれるって。」
お分かりのように、ゴンの言葉が分かるのは私だけらしい。
イタチはゴンのことを可愛く思ってるんだけど、ゴンが警戒してるんだよね。
それが分かってるから、イタチは顔だけ見るといつも黙って戻ってしまう。
それを見ると、ゴンは途端にガツガツ食べ始める。