第6章 逃がさないんだから…!
「う、うん…。気絶したのは…初めてだったけど…。」
「初めて…?なら、何回もこんなことがあったのか?」
言いながら、イタチはまたひょいっと私を背負い直した。
「まぁ…ね。暗部に追い回されてたから…。」
「…シスイの事後、すぐの事か?」
「うん…。暗部は、兄ちゃんの影分身を追ってきたみたい。癖が発動したのもそれが最初。」
初めてこの”癖”が発動したのは兄ちゃんが死んだ晩だった。
ふと気がついたら夜明け前で、周りが死体と血の海になってた。
もう里には帰れなかったから、暫くは森の中を彷徨い歩いてたの。
そうしてたら、次から次に暗部が出て来て殺されかけたっけ。
その度に”無意識に”死闘をしてたんだと思う。
死に物狂いの時ほど、意識をなくすことが多かったから。
「でも…、つな…師匠と会ってからは師匠があいつらを追い払ってくれたから、戦う機会もあんまなくてさ…。」
綱手様があの怪力と逃げるすべを叩き込んでくれたから、”癖”が発動しなくても対処できるようになっていった。
「綱手様に弟子入りしたのか…。」
おふっ。
やっぱバレたか。
つな、しか言ってないのに。
「うん…。半ば無理やり入った様なものだけどね。」
「…よく、会えたな。あの方は神出鬼没で有名なんだが…。」
「ほんとね…。偶然森を抜けた先の町にいたの。」
本当にラッキーとしか言いようがない。
「そうか…。」
それきり、また沈黙が流れる。
ざっ、ざっ、ざっ…
規則正しく揺れる背中は広くてあったかくて、兄ちゃんを思い起こさせた。
兄ちゃんの背中は子供心にも広くて頼もしかった。
あの背中が無くなるなんて、当時の私は想像できなくて。
生きていれば兄ちゃんもイタチと同じ位に…ううん、イタチよりも体格良く成長したんだろうな。
こんな風に背負われることも、もしかしたらあったのかなぁ。
…馬鹿だなぁ。
こんなこと考えたってどうにもならない。
私は盛り上がってきそうになる涙を、目をぎゅっと瞑って押し戻す。
上を向くと、さっきよりも星の瞬きが増えていた。
「イタチ…、ありがとう…。」
私は広い背に顔を埋めた。