第13章 浅緋(あさあけ)、君に口づける ✳︎✳︎
「……ダメなのか?」
珍しくそう言ってしまった俺に意表をつかれたようだが、グッと力を入れて彼女は体を起こした。
少しの”間”がまた出来る。
七瀬は俺をしばらく見つめたかと思うと、先程「ダメ」と言ったにも関わらず、ギュッ……と抱きついて来た。
「どうした?ダメではなかったのか?」
フッと笑いながら、彼女の髪を優しく指で梳かす。
「ダメだったんですけど……まだ朝も早いですし……その……」
では、その気持ちに応えるとするか。
くるっと七瀬の体を反転させ、先程と同じように彼女の上に跨った。
「………俺は本当にやめようと思ったんだが。君がそのつもりなら、遠慮なくもらうぞ」
三度(みたび)自分の唇を恋人の唇にそっと落とす。
啄むような口付けの次は舌をスルッと差し込み、彼女の上下の歯列を丁寧に辿る。七瀬も自分の舌を俺の舌に絡ませ、両腕を先程と同じように首にまわして来た。
「七瀬……」
俺は囁くように、愛しい君の名前を呼ぶ。
「………もっと名前……呼んで下さい」
「ねだるのが昨日より上手くなったな」
口付けを一旦やめる。そして彼女の柔らかく小さい唇を親指でツツ……っと2回なぞる。
「好きな人に名前を呼ばれると、ここがすごく温かくなるんです」
七瀬は心臓を人差し指でトントン、と示した。
「だからたくさ……んぅ」
「七瀬……七瀬……大好きだ」
そんなにかわいい事を言うな。たまらないだろう。
せっかちな俺は彼女の言葉を最後まで聞かずに、愛しい君の名前と共に自分の唇を届ける。
絶え間なく口付けを与えながら、その合間に名前を続けて呼ぶ。
更に七瀬の体が温まるのがわかった。