第2章 炎柱・煉獄杏寿郎の息吹
杏寿郎はこの日鬼殺隊当主である、産屋敷耀哉の命で帝都(=現在の東京)付近に現れると言う十二鬼月の討伐任務に当たっていた。
情報通り、鬼は下弦の弍。
即ち十二鬼月であった。鬼は軍人のようないでたちをしており、その手には銃器を持っている。杏寿郎は刀、鬼は銃と血鬼術。
二人はしばらく交戦していたが、何度攻撃を食らわせても向かってくる杏寿郎に下弦の弍は苛立ちを隠せなかった。
やがて鬼が持っていた銃の弾が切れる。彼は叫びながら火器を投げ捨てた。一刻も早く目の前の鬼狩りを始末したい。
そうしなければ、彼は憤死してしまうと感じた為だ。
その時鬼の視界に入って来たのは刃こぼれをし、柄もボロボロとなっている一本の刀だった。
『大丈夫です、俺達の剣は負けませんよ。銃なんかに』
鬼の脳裏には人間だった時の仲間だろうか。一人の男が言った言葉が蘇る。
『…………』
杏寿郎が何も言わない鬼に熱い熱い炎の斬撃を浴びせた瞬間 —— 彼は姿を変貌させていく。
真っ黒な狼がそこに現れ、空気が重さを増し、そして禍々しく変化した。
「俺は佩狼(はいろう)、煉獄杏寿郎。ここからは一人の武士として貴様を殺す」
「…………ああ、望む所だ」
杏寿郎は鬼の攻撃を受け、至る所から出血していた。隊服の上に身につけた白い羽織は血で赤く染まり、所々が破けている。
佩狼はその姿を過去に自分を斬った槇寿郎と重ねていたが、どこか違和感も感じていた。
日輪の炎と宵闇の影。
双方の剣が合わさり、二人の周囲には激しい砂塵が舞い上がる。
佩狼の血鬼術が杏寿郎の剣を押していくかに見えたその時 ——
『俺の影が焼き払われる!何だ?この攻撃は!!』
炎の呼吸は九つの型で構成されている。
その奥義であり、自身の名を冠した玖ノ型を杏寿郎は放つ。
「炎の呼吸・奥義!」
——それは全身全霊、自分の命ごと浴びせる究極の斬撃!!
「玖ノ型 —— 煉獄」
朝日のような眩さの炎龍が杏寿郎の日輪刀より放たれ、佩狼を喰いつくした。
「……良い太刀筋だ」