第11章 音柱・宇髄天元
「全て頼みたい!」
「おお!思った通り、すげえ心意気だ!流石煉獄だなー……よっしゃ、任せとけ!!」
前のめりにググッと体を全面に出す炎柱。
その日輪の双眸からは瞳と同じ緋色の情熱が溢れ出ていた。
感激した天元はパン!と右膝を打ち、持ち得る四十八の知識を余す所なく友人に伝授していく。
合間に「おお!」・「よもや!」・「む!」と言う、杏寿郎の三つの声が室内に響き渡る。
その度に天元は、にやけそうになる表情筋をひたすら抑える事に尽力した。
柱の貴重な時間を使い、自分を頼ってくれた目の前の男に精一杯応えなければ。
その一心の思いで内容をわかりやすく且つ、凝縮して杏寿郎に伝えていった。
一時間弱経った頃、ようやく天元による講義が終了した。
パタン —— と炎柱は音柱より授かった知識を書き込んだ冊子を閉じる。その頁数は実にニ十四。
「大変勉強になった!宇髄、本当にありがとう。所で……」
「ん?あれか。沢渡の事?」
「………!何故それを」
「だってお前、めちゃくちゃわかりやすいもん」
顔に笑みがぱあっと咲いたかと思えば、今度は林檎のように赤く表情を変化させる杏寿郎。天元は炎柱の嘘がつけない性分が眩しかった。
瞬きの数が多くなった彼に「まあ、落ち着け」とぽん、と両肩に柔らかく掌を置いた音柱。そして、杏寿郎が聞きたい事であろう話をぽつりぽつりと紡ぐ。
たまたま店の前で彼女と会った事。
嫁達と待ち合わせをしている旨を伝えると、三人に会いたいと向こうが言った為、じゃあ相席するかと声をかけた事。
それらを友人に伝えた。
「………ってわけ。だから俺とあいつは何にもねーよ(多少事実は捻じ曲げたが、まあこのくらいは問題ないだろ)」
「そうか……」
ほう、と一つ息を吐いた炎柱は心の底から安心をする。