第45章 霞柱・時透無一郎
「君に手紙を書いて良いかな」
「? 僕に、ですか…?」
無一郎がそんな事を提案してくると夢にも思わなかった千寿郎は、何が起こったのか全く把握出来ていない。
ほんの数秒ぼうっと意識が別の場所へ飛びそうになった所へ、槇寿郎が声をかける。
「千寿郎? どうした、具合でも悪くなったのか?」
左隣に立っている父から肩をつかまれた彼は、ハッと意識を今ここへと戻す。これを受け、杏寿郎は無一郎が来訪した時と同じように助け舟を出した。
「弟は時透からの申し出に大層感激したようだ。言葉が上手く出ないらしい。君さえ良ければ、千寿郎と交流してやってくれ」
「…はい。ありがとうございます…今また煉獄さんと試合をしていた時のように、胸のこのあたりがあたたかいです」
「そうか!」
それでは失礼します —— 無一郎は三人に深く頭を下げて、煉獄邸を後にした。良かったなと千寿郎の肩に手を乗せる兄と父。
槇寿郎は息子にとって初めてと言える歳の近い男子が、現れた事に感動をしている。
「む? そろそろ任務に向けて準備をせねば!」
父と弟が心の中を感動でいっぱいにしている最中、炎柱は自分の懐中時計を見ながら慌てた声を発した。
真夏の太陽は出ている時間が長い為、夕方まで余裕があると思いがちだ。
「ただいま戻りました〜! 今家の前で無一郎くんに会ったんですけど、何かあったのですか?」
そこへ頃合いよく帰宅したのは七瀬である。
手には無一郎がここへ来た時と同じ物 —— 以心伝心の塩大福がある。
「おかえり、七瀬! 実はな…」
杏寿郎から詳細を聞いた彼女はえーと不満気に声を発し、こう訴えた。
「急に決まったから仕方ないとは言え、それは私も見たかったです! 皆さんずるいー」
杏寿郎は後日彼女の好物のカステラを購入し、七瀬に「すまなかった!!」と清々しく詫びを入れたのだった。