第45章 霞柱・時透無一郎
「時透、よく来てくれたな! 今日も頼むぞ」
「こんにちは、煉獄さん。僕の方こそよろしくお願いします。文、ありがとうございました。でも凄く驚きました」
「はは! そうか」
八月中旬の盆目前のある日。
蝉の鳴き声はやや落ち着いてきたが、まだまだ暑い夏は終わらない。煉獄邸に霞柱が再び来訪した。
「七瀬と君の試合を見ていたら、俺もやりたくなってしまったんだ」
「そんな風に言って頂いて光栄です」
炎柱は七瀬と無一郎が勝負をしたのち、霞柱にとある誘いの文を出したのだ。俺とも剣を交えてくれないだろうか、と。
「七瀬は今日留守ですか?」
「ああ、友人と出かけると言っていた! それがどうかしたのか?」
「いえ…今日、僕達が手合わせする事は知ってるのかなあって思っただけです。これ宜しければ皆さんでどうぞ」
脱刀をする前に無一郎はまず持参した手土産を杏寿郎に渡す。手提げ袋から霞柱が出したのは甘味処・以心伝心の塩大福。
「先日定期検診で胡蝶さんの所に行ったんですけど…あそこにいる小さな女の子達が凄く美味しいって言ってて。炭治郎も美味しいって前言ってたから、僕も食べてみたんです」
「君も気に入ってしまったのだな?」
はい、とやや恥ずかしそうにする無一郎である。塩とあんこがちょうど良い ——これを聞いた瞬間、そうだろう!と大きく頷く杏寿郎の脳内に浮かぶのは父と弟、それから七瀬の笑顔。
「運が良かったな! 弟が言っていたが、なかなか買えないとよく聞くぞ」
「へえ…と言う事は僕、幸先良いですね」
にっこりと微笑む無一郎に対して杏寿郎は、自分も食べるのだから幸先が良いのは同じだと笑顔で返す。
「俺は準備出来ているから、いつでも出来るぞ!」
「僕もいつでも大丈夫です」
「だが腹が減っては戦は、とも言う。君もせっかく持ってきてくれたしな! まずは…」
穏やかな会話の中に垣間見えるのは、パチパチと静かに熱く咲く火花。炎柱と霞柱の勝負は、もうこの瞬間から既に始まっているようだ。