第38章 父と息子の初炎武(えんぶ) 〜二人の炎柱〜
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「さっきは本当にお疲れさまでした。 お二人を見てて、何度も心が揺さぶられました」
「それは嬉しいな!」
その日の十五時過ぎ —— 七瀬は杏寿郎に呼ばれ、彼の部屋へやって来ている。
今夜は久しぶりに二人で街の見回り任務である為、共に隊服姿だ。
「それで杏寿郎さん、私に聞きたい事って何なのでしょう」
七瀬が彼に呼び出されたのは、昼食を食べた後すぐの事だった。千寿郎と洗い物をし、一旦自室に帰って隊服に着替え、それからこの部屋に来ているわけだが…。
「父に不知火の型を指導したのは君だろう?」
「は、はい……そうですが」
杏寿郎は笑っているが、双眸に浮かんでいる感情は対照的で、どこか仄暗くもある。これはもしや —— 七瀬があっとその感情の正体に気づいた時、彼の口から答えが飛び出した。
「うむ、率直に言って気分はあまりよくない!」
「えー! 槇寿郎さんですよ。お父さんじゃないですか」
二人で話がしたいと言う事は、恋絡みの件なのだろうか。
そんな予想を立てていた七瀬であったが、これには大層面をくらってしまう。
「相手が父上だからだ!! 俺との勝負前に何故そのような事をした?」
「…その、杏寿郎さんを驚かせたいんだって言われて……それは私も見たいなあって。ふふっ…」
思い出し笑いをした途端、しまったと後悔する七瀬である。
「私が不知火の連撃を思いついたのも、元々はあなたを驚かせたいなあって考えからです! だから……その時の事を思い出して…その…また見たいなあ……って」
「ほう、そうなのか」
「はい、そう……です」
槇寿郎が不知火の改を使用した際、杏寿郎は【まさか】と言う感情と共に嬉しさも同じくらい見せていた。
七瀬が指摘すると、彼はきょとんとした顔をする。
「杏寿郎さん、凄く良い表情してましたよ」
そして自分の両手を彼の両手にそっと重ねた。