第38章 父と息子の初炎武(えんぶ) 〜二人の炎柱〜
「壱ノ型・改 —— 不知火・連」
右に一閃、左に一閃と横に薙いだ杏寿郎の木刀は、槇寿郎の木刀にヒビを入れていたのだ。
ビリビリと掌まで呼吸の威力を味わった槇寿郎は、ここまでだなと確信をし、七瀬に「これ以上動くのは難しい」と直接伝える。
「あ…はい! じゃあ杏寿郎さんの、勝ち…ですね」
「……!」
父と継子の言葉を聞いていた杏寿郎は、ふっと体の力を抜き、最初に槇寿郎と向き合った場所へと歩を進めた。
ゆっくりと顔を上げた先には、顔に汗の粒を多く付着させた槇寿郎の姿がある。
互いに礼をした父と子は、竹筒を七瀬と千寿郎から受け取り、中に入っている水をゴクゴクと勢いよく流しこんでいく。
「お疲れ様でした……何だか胸がいっぱいになってて、私泣きそうです」
「俺もです!! 父上と……兄上が…こうして勝負、され…」
互いに両目を潤ませていた七瀬と千寿郎。
感情が昂った煉獄家の次男は、顔をくしゃくしゃに歪めて静かに涙を流し始めた。
隣にいる七瀬が手拭いを渡すが、彼女の双眸からも既に涙は流れている。
ひくひくと体を震わせる千寿郎の背中を、そっとさするのは槇寿郎だ。息子が涙を流す姿を見て目頭を熱くしているが、それ以上は我慢をしている様子だ。
「杏寿郎さんも行って下さい!」
「そうだな!」
持っていた木刀を七瀬に預けた杏寿郎は、父と弟が共に立っている場所まで歩いていくと、すぐさま千寿郎を抱きしめてやった。
「おい、俺が今千寿郎にそうしようと思っていたんだぞ! お前は離れろ! 腕を引っ張るな! 暑い!! 離れろと言っているだろう…」
「暑いのは父上も一緒でしょう!!」
ワハハハと杏寿郎の大きな笑い声は、蝉達の鳴き声にも負けてはいない。
暑い暑い真夏の親子決戦は、息子・杏寿郎の勝利で幕を閉じたのであった。