第7章 緋(あけ)と茜の初炎武(えんぶ)
「うわっ!」
七瀬はくるっと一回転して着地しようとしたが、疲労からかうまくいかずに右足首をひねってしまった。それでも何とか立ちあがったが、歩いてみると鈍い痛みが走る。
「んっ!……痛い……」
『……む!』
その様子を見た炎柱はスッ……と闘気を抑えたのち、木刀をスッと下におろした。
「沢渡、大事ないか?」
立ち上がっているものの、右足をひきずっている七瀬に近づく杏寿郎。目の前まで行って彼女の前でしゃがむと、足袋と草履をゆっくり脱がし、持参した竹筒に入れてあった水を足に数回かけた。
応急処置が終わると、彼は乾いた手ぬぐいで彼女の足首を固定し、二人分の木刀は刀袋に入れ、自分の体の前面にくくりつける。
「帰るぞ」
「えっ…」
杏寿郎は彼女の前にしゃがんだまま、今度は背中を向け、両手を七瀬の方に伸ばす。
「師範、大丈夫です!まだやれま……って痛いっ!!」
無理に歩こうとすると、またビリッと足に痛みが走る。おまけに、目に涙も滲んでしまった。
「そんな状態で続けてみろ。稽古どころじゃなくなるぞ。今日はこれで終いだ」
杏寿郎は静かだが有無を言わせぬ口調で言い、再度自分の背中に乗るように促した。
「意地をはらずに乗りなさい」
「はい、申し訳ありません。失礼します……」
七瀬は遠慮がちに背中に乗る。
「よし!行こうか」
杏寿郎はしっかりと七瀬の体を抱え直し、歩き出した。
「胡蝶に診てもらうよう、後で要を飛ばしておこう」
「本当にありがとうございます。師範はやっぱり強いです……今日の稽古で改めて感じました」
七瀬は興奮を抑えきれなかった。
体を包む高揚感に後押しされながら、杏寿郎に率直な思いを伝えていく。