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沈まぬ緋色、昇りゆく茜色 / 鬼滅の刃

第33章 不機嫌な八雲にカステラを



「…私、まだ怒っていますからね」
「ああ、わかっている…」

この【怒っている】は七瀬の意地であり、本当はとうにおさまっているはず。素直でない彼女もやはり悪くはない。

俺はまた一つ柔らかな愛撫を七瀬の唇に贈った。

ポン、と頭を一度撫でた後は絡めている手をしかと繋ぎ直し、厨(くりや)の方向へ歩いて行く。

「……杏寿郎さん」
「どうした?」

後ろから声がかかった。
振り返ってみると、やや挑戦的な眼差しを七瀬が送っている。しかし特に気にせず、俺はいつも通り彼女に視線をやった。

さて……何を言ってくるやら?

「来週は負けませんからね」

そうか、ここで剣術の話題か。ならば俺もこう答えねばな。

「ああ、楽しみにしている」
「本気で言ってますよ」

「うむ、それも把握している」
「………」

それきり、黙ってしまう恋人だ。
くつくつと笑いたい所を我慢したかったが、己の口元が緩んだのが自分でもわかる。

七瀬は本当に負けず嫌いだな!!






「おいしーい!! やっぱり何度食べてもここのカステラは最高ですね。杏寿郎さんももっと食べて下さい」

「君、それは俺が言う言葉だぞ??」

「ふふ、そうでした。これは杏寿郎さんが買って来てくれましたもんね」


七瀬のこの顔が見れるのであれば、カステラを購入する事など容易い物だ。その後も美味しい美味しいと舌鼓を打つ彼女を見ながら食べていると、二人で一本食してしまった。

「蝶屋敷から頂いたカステラは四人で食べましょうね」
「無論だ!!」

カステラを共に食べた後は、自室に帰ると言う七瀬を部屋の前まで送り、任務の準備をしつつ、自主稽古にも勤しんだ。

夕餉に出て来た【だご汁】は、久々に七瀬が一人で作ったらしい。俺も父も弟も皆(みな)がおかわりをし、あっという間に食べ尽くしてしまった。

我が継子との二回目の勝負はもうすぐそこまで迫っている。師範として簡単に負けるわけにはいかない。



———梅雨入りした合間のよく晴れた一日。その日は遂にやって来た。

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