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沈まぬ緋色、昇りゆく茜色 / 鬼滅の刃

第32章 君の涙が止むまでの十分間



五月中旬の昼下がり。

昼餉を食べ、父と弟は共に買い物へ行った。七瀬も栗花落少女と約束をしているとの事で午前中から出かけている。
それ故、この家には自分一人だ。

隊服へ着替え、任務へ行く準備をしていると「ただいま帰りました」と玄関から声が聞こえて来た。

七瀬だ。

彼女と認識した瞬間、足が自然と玄関に向く。

「あれ、杏寿郎さんお一人ですか?」
「ああ、父上と千寿郎は出かけている!」

「じゃあ、これ冷蔵庫に入れておきますね」
「む?」

帰宅した彼女は以心伝心で購入したわらび餅を掲げた。
それから共に厨(くりや)に向かい、甘味を冷蔵庫に入れた。

ふうと短い息をつく七瀬の背中に、普段の朗らかさが少ない。何かあったのだろうか……後ろから包むように彼女を抱きしめる。


「…どうしたんですか?」
「ん?こうして欲しいのではないかと思ってな。君が寂しそうに見えた」

「ふふ。やっぱり杏寿郎さんには隠し事なんて出来ませんね」

やはりそうか……こちらを向いた彼女はぎゅっと俺に抱きついて来た。
「どうした?」と言う言葉と共に七瀬の背中へ両腕を回す。

「巧の所に行って来ました。今日は善逸がいて…」
「うむ」

桐谷くんの墓参りは彼女も俺も毎月の習慣で向かっている場所だ。

我妻少年と何を話したのだろう。華奢な背中へ回した両腕を右手だけ外し、小さな頭へポンと乗せる。
手を動かすと、サラリとした焦茶の髪が流れた。

「亡くなって一年経ったね…とか、鳴柱になった所を見たかったね…って話してたら……」

うっ……と声が聞こえて来た後は、言葉が途切れてしまった。

「すみま…せ…ん。任務前なの…ひっく…に…」


涙で鼻が詰まり、随分と話しにくそうだ。
目元の涙を自分で拭う様子を見ていると、いたたまれない気持ちが膨れ上がる。
俺は彼女の瞳から流れた雫を、口付けと共に受け止めた。

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