第31章 青柳色の君からの贈り物 〜さつまいもの甘味と共に〜
五月九日。
明日は自分の誕生日だ。父からの提案で家族写真を撮りに行こうと七瀬も含め、皆(みな)で出かけるつもりだったのだが…。
「家の事は大丈夫ですよ」
「無理はしないように」
「日頃頑張っているから、休めと言う事だろう。俺達の事は気にするな!」
つい一時間前、彼女に対してこんな言葉を各々がかけて家を出て来た。発熱の為、七瀬は寝込んでしまったのだ。
「杏寿郎? 着いたぞ」
「兄上? どうされました?」
父と弟に声をかけられ、目の前を見ると今日の目的地に着いていた。【窪田写真館】と看板には記してある。
「申し訳ありません! 呆けてしまいました。七瀬が何日も前からここに来るのを楽しみにしていたので、本当に残念だったなあと」
俺が二人に返答した瞬間、父と弟は互いに顔を見合わせて目配せをする。何だ? どうしたと言うのだ……?
「それなら俺達に任せておけ」
「はい、俺と父上にお任せを」
頼もしい発言をした二人は意気揚々と写真館の扉を開き、店内に入っていった。
何をしようとしているのか全く検討がつかないが、表情から察するに悪い事ではなさそうだ。
よし、信じて入ってみよう。
ここは母がまだ病に伏せる前から付き合いがある店だ。店主は鬼に襲われそうになった所を父が助けて以来、懇意にしてくれている。
先日十年振りに父と訪れた際、店主と奥方は涙を流して俺達を出迎えてくれた。
「いらっしゃい、杏寿郎くん。話は今槇寿郎さんから聞いたよー。今日もう一人来る予定だったんだって?」
「あなたの良い人なんですってね。どんな子なの?」
満面の笑顔を向けているこの二人が、店主の克(すぐる)さんと奥方の真理子さんだ。