第29章 褒められ日和に、橙が咲く ✳︎✳︎
「汗、かいたから…湯浴みしないと」
「別に構わないぞ?」
七瀬は己の体臭が気になるのだろうが、自分は全く気にならない。恋人が汗をかいたから何だと言うのだ。しかし ——
「それよりも俺はどうだ? 気になるんじゃないか?」
「……大丈夫、です」
「七瀬、無理はするな」
「無理は……」
彼女の言葉が途絶える。
うむ、やはりそうか。であれば強制は出来ない。名残惜しいが、湯浴みを互いにしてさっぱりするのが賢明だ。
「あ、あの。杏寿郎さん……そうじゃなくて」
「俺のにおいが気になるのだろう?」
……違うのか?
首を傾げると、七瀬に両頬を包まれた。
彼女の瞬きの数は多く、何かを伝えようとしているのだろう事はわかるが ——
「驚かないで下さいね」
「うむ! 伝えてくれ」
告げられた言葉を聞いた俺はと言うと、だ。
「……光栄だな!」
「本当ですか? 気持ち悪いって思いません?」
「先程言っただろう、全く気にならないと」
「……そうでした」
少し恥ずかしそうにしていた彼女だが、納得がいったらしい。ほっと息をつき、笑顔を見せてくれた。
「俺は君の匂いが大層好みだからな! まあ嫌いな所などないが」
「杏寿郎さん……凄く嬉しいです」
再び彼女の唇に口付けを贈る。吐息と唾液を絡ませ合いながら、互いを求めていく。
着ていた衣服を一つずつ脱がすと、七瀬もまた俺の衣服を一つずつ脱がせてくれる。
「まだ明るいから恥ずかしいけど…それよりもあなたと繋がりたいです」
「ほう、これはまた随分と情熱的な誘いだな」
ちう、と彼女は一粒の口付けをくれた後、俺の腿(もも)の上にゆっくりと腰を下ろした。
じわっと下腹部の入り口から彼女の欲が流れ出す。割れ目をなぞってやると、いつもの可愛らしい啼き声が部屋に響く。