第26章 七十ニ時間分の恋慕 ✳︎✳︎
「ありがとうございます。やっぱり杏寿郎さんは優しいです」
彼が自分の着流しを脱ぎながら私との距離をスっと縮める。
恋人の衣服がバサっと落ちると、大小様々な傷痕が逞しい体と共に私の視界に入って来た。
ドキドキと胸が高鳴る中、横抱きにされる。
乾いた私の肌と彼の肌が重なり、敷いている布団にゆっくりと倒されていく。
ピンとそり上がっている昂りを解放するように、杏寿郎さんは下着を取り払った。
行燈の光に照らされ、互いの体が浮き彫りになる。
肩から腕、腰から臀部へかけての曲線を大きな両手で焦らされるようになぞられると、ピクンと体が揺れた。
「優しい、か。光栄な言葉だが、こうしても同じ事が言えるか?」
——— 彼の瞳に獰猛な感情が宿った。
左側の首元に彼の唇が届くと同時に、ちりっとした痛みが私の肌に響く。
「ん、ちょっと、そこは見え……」
「ん? そうか? ギリギリの所だと思うが。もう二つ程……」
「えっ?ちょっと、杏寿郎さ、ん」
先程と同じように二回連続して、ちりっとした痛みが首元に染み込んだ。
「綺麗な花が三つ咲いた」
「もう…嬉しそうですね?」
「……まあな」
ちう……と唇に口付けが落ちる。
「それから七瀬、以前も言っただろう? そう言う顔は全く怖くないし、俺を煽るだけだ、と」
私の唇を彼が再度塞ぐ。水音が互いの唇の間で響いていく。
「もう少し……開けてくれ……」
「は……い……あっ……」
熱い舌がいつもより奥まで滑りこんでくる。思わず自分の舌を引っ込めてしまえば、彼の舌が逃さないとばかりに追いかけてきた。
「んんっ……」
「逃げないでほしい」
「は……い……」
二つの舌と舌が絡み合い、また気持ち良さが増していく。