第26章 七十ニ時間分の恋慕 ✳︎✳︎
強欲を七瀬の口・腹・背中に吐き出したが、足りずにそれらをもう一回ずつ繰り返してしまった。今は布団に隣りあって横になり、彼女を後ろから抱きしめている。
「六回体を繋げても満たされなくて……でも体はとっくに限界なんです」
「俺も正直まだ足りん! だが、君の体も大切にしたい。湯浴みに行ってスッキリしないか?」
「それはもちろん賛成ですけど……湯浴みは湯浴みだけしましょうね」
「む……そうだな」
「やっぱりしないとは言わないんですね」
「いや! 今回はしな……むう」
「わかりました! 良いです、無理しないで下さい」
困ったように笑った君は俺の唇に口付けをくれた後、寝巻きを羽織る。腰を押さえながら準備をしてくると良い、部屋を急ぎ足で出て行った。
三日離れてみてよくわかった。
七瀬と体を繋げる行為は、彼女と会話するのと同じくらい大切な物だと言う事を。
「杏寿郎さん。準備出来ましたよ、行きましょう」
「うむ! ありがとう!」
自分の部屋から浴室までの距離はそう遠くはないが、俺は七瀬の手に自分の手を絡めて共に向かう。女子らしく小さな手だが、剣士の手でもある彼女の掌(たなごころ)
繋ぐ度に、触れる度に、七瀬の日常を守ってやらねばと思う。
湯浴みを済ませた俺達だが、結局朝まで三日分の思いを伝え合う結果となり、心と体の結び目がほどけないように、またしっかりと結び直した。
離れていた三日分の距離。縮めてくれたのは七瀬だった。
もう離れたくはないが、それでもまたふとした事がきっかけで、今回のような事が起きてしまうかもしれない。
その時がもしやって来たならば……次回は俺からも歩み寄ってみよう。
いつでも嘘偽りなく自分に思いをぶつけてくれる…そんなかけがえのない君を手放すなど、もう考えられないから。
✳︎杏寿郎目線✳︎
〜終わり〜