第25章 緋(あけ)と茜、初めての喧嘩
「とても良い匂いです。杏寿郎さん、ありがとうございます!大事に使いますね」
七瀬がまた俺の背中に手を回して、抱きしめてくれる。シトラスの香りが再び鼻腔に届き、思わず笑みがこぼれた。
あたたかく、柔らかく、それから心地よい。
小さな体の彼女だが、俺は七瀬の存在がとても大きく感じられる。
「三日振りだな。これから遠方への任務が入った時、少し……いや、かなり心配だ」
「心配……ですか?」
「ああ」
「ん……」
三日離れただけで、喪失感と言うのか。それに近い感情を味わった。一週間…一ヶ月。恋人と出会って以来まだ長期の任務には当たっていない。
今後それが訪れた時、一体自分はどのようになってしまうのか。
任務はこなすだろうが……。
色々な思いが心を渦巻く中、恋人の顎を掴んで啄む口付けをした。
三日間触れる事が出来なかった七瀬の唇。
そこをじっくりと堪能するように、たくさん……たくさん。
唇をゆっくり離すと、銀糸がいつも通り繋がっていた。
「やはり君には毎日触れていたいし、毎日繋がりたい」
「え、毎日ですか?」
「嫌なのか?」
「いえ!そんな事は決してないのですけど」
嫌でないのであれば、一体何だと言うのだ。彼女の左頬を右手でそっと包み、柔らかく撫でる。
「だって杏寿郎さんは体力がすごいじゃないですか……」
「ほう?」
ふむ、なるほどな! これには少し納得だ。
「だからついていくのが正直大変なんです」
真っ赤な顔を俺に見られるのが恥ずかしいのか。
彼女の頭が胸にトン、と当たる。よく見ると耳まで赤い。やはり七瀬、君はかわいい。
「それはすまない!……と、そう言いたい所なのだが、君を抱くのに加減はとても出来なくてな」
「えっ、加減出来ないって………」
「三日分の愛情を君に贈りたい。受け取ってくれるな?」
……受け取って貰わねば大変に困るのだ。恋人を今すぐ抱きたい。
瞳の奥の温度が少しずつ上昇していく中、三日振りの恋人との情事はこうして始まった ———