第18章 始まりは日であり、炎は派生である 〜元炎柱・煉獄槇寿郎〜
俺は彼女に背を向け、再度部屋の中に入る。
その目的はこれだ。くたびれた布団から少しだけ距離が離れた所へ置かれている酒瓶を手に持った。
自分が所持している酒の中で度数が一番高い物だ。
正座をして自分を待っている、彼女の目の前に一つの酒瓶をトン……と置く。
「え……これ…よろしいんですか?」
沢渡が目を見開きながら、自分に問いかけて来た。
俺は今までと同じように、彼女と同じ視線になるようしゃがむ。
「任務に必要なんだろう?持って行きなさい」
「……!」
自分の子供と同じような年代の人間 —— それも女子の話を聞いて、心が動いてしまうとは。
「……杏寿郎はとても良い継子を持ったのだな。君の話を聞いて、頭をガツンと打たれた気分だ」
言ったと同時、息子に羨望の気持ちが湧いた。
目の前の娘は師範としてではなく、異性としても杏寿郎の事を慕っている。そう確信したからだ。
あいつは父によく似ている。
自分が持っていない物をたくさん手にしていた父に。だからこそ憧れ、父のような炎柱に。
その気持ちが柱へと向かう道筋を作ってくれた。今になって思い出してしまうのは……何故なのだろう。
俺が逡巡しながら少女を見つめていると、笑っているではないか。
「そこは笑う所か?」
目尻を下げ、掌を彼女の頭にぽんと乗せた。自然な動作だった。
「……すみません。嬉しくなってしまって…親子だなあって」
それはあいつと……杏寿郎と似ていると言う意味だろうか。
沢渡の目から涙が1つ流れると、それを皮切りに次々と涙がこぼれていく。
「……俺が泣かせたみたいだな…まあそうなんだが」
戸惑う気持ちも持ちながら、彼女の頭を続けて撫でる。すると泣き笑いのような表情になる沢渡だ。