第18章 始まりは日であり、炎は派生である 〜元炎柱・煉獄槇寿郎〜
それから年が明け、新年がやって来た。
左腕の火傷も完治したある一日 —— 今日は週の始まりの月曜日だ。
「戻りました」
「お帰りなさい、今日もありがとうございました」
「うむ、ではいただくとしよう!」
七瀬が父上の部屋から居間に戻って来た。
これは我が家に来た日、父の朝食を持っていくと言い出してからの彼女の日課である。長期任務で家を空ける以外は、ほぼ毎朝こなしている。
恋人が座布団に腰を下ろすのを確認した俺は、食事へと促す。
今朝の献立は白飯(はくはん)にたくあん。さつまいもが入っただご汁と、鮭の塩焼き。だご汁とは九州地方の郷土料理の事だ。
「いただきます!!!」
三つの声が揃うと、三人で食べる朝食の時間が始まっていく。
「七瀬の作るだご汁はうまい!!」
「七瀬さん、俺もこれ大好きです」
「ありがとうございます! お二人がそう言ってくれて、私の母も嬉しいんじゃないでしょうか」
と言う話の流れで、予想出来るかもしれない。
これは彼女の母が九州出身で、生前よく作っていたからだ。
そして味噌汁の代わりにだご汁を食卓に出していたのだと、話を聞いた千寿郎が興味を持つ。七瀬と共に作ってみると、俺達の舌に大層合う味付けであった。
それ故、我が家でも時々味噌汁の代わりとして食卓に出る事が増えたわけだ。
どうやら父・槇寿郎も毎回残さず食べているらしい。
父と話す事は殆どないが、味覚で繋がっていると思うと、ほんのりと心があたたまるような気分だ。
そこへ七瀬が突然こんな事を呟く。
「天岩戸(あまのいわと)から出てこない天照大御神(あまてらすおおみかみ)みたい」
「む?」
「え?」
俺と千寿郎、互いに虚をつかれたような声が同時に発せられた。
そして俺達を見る七瀬が、かなり戸惑っているのがよくわかる。
“アマノイワト、アマテラスオオミカミ”
何処かで聞いたこの二つの単語。さてどこだったか。
俺がむむ、と考え始めたその時、千寿郎から「日本神話ですか?」と答えが発せられた。