第15章 紫電・心炎の想い / 八雲の踏み込み・蟲の戯れ
氷嚢を七瀬としのぶへ持って来てくれたのは須磨。
三人いる内の天元の妻の一人だ。長い黒髪が印象的で、癒される人柄。三人の中では末っ子の位置、と言った所か。
二人の試合の結果は、十分内に勝負がつかず、引き分けであった。
だからお互いに勝ってもいないし、負けてもいない。
でもこれで良かった気もする。七瀬は胸の中でそんな事を考えていた。
「しのぶさんはやっぱり凄いですよね。私は三本目、突きをかわすだけで精一杯でしたよ」
「ふふっ。私もあなたがいつまたあの強烈な踏み込みをしてくるかどうか気が気じゃありませんでしたよ?」
互いの肩は痛いが、二人の心は清流のように澄み切っている。
「流石は煉獄さんの継子ですねぇ。またカナヲとも手合わせしてあげて下さいね」
「ありがとうございます、蟲柱様! 勿論です。カナヲともまた手合わせしたいです」
しのぶと七瀬は笑顔で互いをたたえあった。
「食事の準備もできたようですよー。お二人が大丈夫でしたら行きませんか? 勿論まだ休まれてても良いですが」
「私はもう大丈夫です!須磨さん、行きましょう」
「すみません、私はもう少し休憩してから向かいます…」
しのぶと須磨、二人が先に部屋を出ていくと彼女はふう……と大きく深い息をついた。
痛みは氷嚢のおかげで大分引いてはいるが、何となく少しだけ一人の時間が持ちたくなった為だ。
『柱って本当に強いな。蜜璃さんはまた戦い方が全然違うんだろうな』
恋柱であり姉弟子でもある蜜璃。
試合……とまではいかないが、彼女に稽古をつけてもらうよう頼もうか。そんな事を静かに決意する七瀬であった。