第11章 デート
「・・・ルー様、見過ぎです。」
「あぁ、自覚しているのだが、少しでも目を離したら何処かに行ってしまいそうでな。」
「私は簡単に迷子になる様な、幼子ではないですよ?」
「カオリは一人の麗しい女性だと、私は思っているが?だからこそ、余計な心配をしてしまうのだ。目を離した隙に、他の男に浚われるのではないかとか。」
これも、真顔で言われるから恥ずかしい。
「私の心はカオリのものだ。だから、諦めてくれ。」
「恥ずかしいですけど、嫌な訳ではないです。」
「約束した通り、私は余所見すらもしない。」
確かに・・・ルー様は、いつも私を見ている。
「それは信用しています。」
「そうか。その信用を裏切ることはしない安心してくれ。」
そんな甘い空間の中にも、飛び込んで来る猛者は要る訳で・・・。ルー様しか視界に入っていない何処かの令嬢たちが、ルー様に群がった。
この前のバッファロー軍団を思い出す。今回は差し詰め、トラ軍団?肉食獣だよ。
一人の煌びやかな令嬢を筆頭に、熱心にルー様に声を掛けているのだけど。でも、ルー様はそんなトラ軍団を一瞥してそのまま立ち上がった。
勘違いした令嬢は、私からルー様を奪えたとでも思ったのか私を見て失笑した。が、ルー様は私の傍に来ては私をエスコート。
「あ、あの、ルーチェス様?」
「デートの邪魔をするとは、無粋だぞ。」
背筋がゾワリとする冷えた声に、顔色を青くした令嬢たち。だが、煌びやかな令嬢は負けなかった。
「ほ、本当にその者は特別な存在なのでしょうか?」
「身をもって落ちぶれるのを実証したいとは・・・随分と変わった思考なのだな。」
私をキッと睨みつける令嬢。でも、私は負けずに見つめ返した。視線を先に反らした方が負け…なんてことはないのだが、私は令嬢の前に立ち更に足を踏み出した。
視線に火花が散っているかもしれない。ビーム・・・は出せない。そんな芸当は持ち合わせていない。
そんな私たちの間に水を差したのは、店に飛び込んで来た年配の男性だった。目の前の令嬢に声を掛け、待機していた馬車が不慮の事故で使えなくなったと知らせに来た。
「貴女がやったのね?この卑怯っ!!?」
振り上げた扇子が、いきなり燃え出した。慌てて手離せば、燃え出した筈の扇子は無傷。
誰よりも驚いたのは、何を隠そう私である。