第1章 私の異世界転生
「五年前、ある国の王女に恋慕されたのだ。だが、ルーチェスはその思いを受けなかった。誰にも公平で人当たりのいいルーチェスを見て、その王女は表情が変わらない呪いを掛けたのだ。」
地味な呪いだけど、誰であっても思いを寄せる相手には笑って欲しいと思うはず。もう五年もこのままなのか。不憫だな。
「その王女はどうされているのですか?」
「逃げ帰ったよ。詫びとして多大な慰謝料は受け取ったが、この呪いの解き方が分からないのだ。」
貴族間にも呪いのことは知られていて、それでも始めは令嬢たちが無表情でも構わないと関わりをもっていたものの、やがて心を病み離れていったらしい。
そして、ルー様はこの国の一粒種。いずれは結婚し、子を成さなければならない。そうしなければ、この国に新たな火種を産むことになるだろう。
「その後、ルーチェス自身が誰とも関わりを持とうとしなくなった。」
まさかである。私は出会って直ぐに寝所に連れ込まれましたが?何もなかったとは言え、これは誉められた行動ではないと思うのですが?
チラッと隣りを見ると、ルー様は無表情のまま俯いていた。無表情に見えるけれど、だからと言って何も思わない訳ではないと思う。
あ~、何か逃げ帰った王女?ムカつく。まるで、赤女みたい。まぁ、命までは奪わなかったのだけど。だからと言って、私に特別な力などない。
ただ、庇護して貰った身として人として、寄り添うことは出来る。言葉も態度も分かりやすい人だもの。って、今更だけど・・・あれは本心?
あんな恥ずかしい言葉や、抱擁や・・・思い出したら、余計に恥ずかしくなった。
「私に何が出来るか分かりませんが、傍に居ることをお許し頂けるのなら庇護して下さった恩をお返ししたいと思います。」
「国王としてルーチェスの父としても礼を言う。」
王妃様は、目に涙を浮かべて辛そうな表情をしていた。子が苦しんでいるのに、何も出来ないことを悔やんでいるのだろう。
そして、ルー様は安定の無表情だった。ただ、手が震えているのが分かり、その手を握り締めた。
「ルー様、大丈夫です。もし、呪いが解けなくても、私がずっと傍にいますから。」
ん?私って、何言ってんだろう?これって、何か・・・プロポーズみたいに聞こえない?