第9章 友好国の皇子
晩餐は、滞りなく行われたらしい。ただ、何度も女神の代理人の話題を出したらしく、不穏な空気になったとも聞いた。何よりも、母上の方がカオリを手離さないだろう。私の為に。
他国が知れば、女神の代理人を囲い込む一方的な行動だと追及されるかもしれない。幾ら、見つけたのが私だとしても。それほど、女神の代理人の存在は稀有なもの。
この先、拉致など企む国もあるやもしれない。私の子の腕の中から、この温もりが消える?そんな事・・・。
心の中で渦巻く真っ黒い欲の塊。だが、それを溶かす甘い感触が頬に触れる。目線を下げれば、私の頬に触れる私だけを見詰めるその愛おしい瞳は真っすぐで美しい。
私が薄汚れて、こんなにも醜い感情を抱いているなど知られたくない。嫌われたくない。
「ルー様、私が夢の中で怖い思いをしたら、助けに来て下さいね?ルー様だけが、私の希望なのですから。」
こんな私を希望だと言ってくれるのか?
「あぁ、私の命に代えても守ってみせよう。」
「だ、ダメです。ルー様の命も大事にして下さい。私がここに居たいって思えるのは、ルー様がいるからです。残りの生涯を、私に泣いて暮らせと言うのですか?」
「失言だった。」
それは一瞬の出来事だった。唇に触れた柔らかい感触。茫然とする私に反して、カオリは私の胸に顔を埋めて真っ赤になっていた。
こんな愛らしい姿を見せられたら、増々、私の中の真っ黒い感情が・・・。
「ルー様・・・大好き。」
それは、小さくか細い声だったが、確かに私の耳に届いた愛の言葉だった。暗くて黒い感情が払拭されていく気がする。
「私も愛している。」
こんな風に思いを伝えられるの事が、私の幸福。この幸福を、あんな男にくれてやるものか。って、私の執着は大概だな。
心の中で苦笑いしながらも、この幸福を噛み染みていた。
翌朝、我が腕の中で眠るカオリの温かさに癒されつつ、この幸せの余韻に浸っていた。ん?どうして私の胸を叩く・・・?気付けば、無意識にカオリの唇を貪っていたらしい。
「す、すまない・・・。」
「ルー様、苦しくない程度にと約束しましたよね?私はルー様とキスするのが嫌だから言っているのではないですよ?苦しいのが嫌なだけです。」
「重ね重ねすまない。その・・・無意識だった。」
カオリは真っ赤になって口をパクパクさせていた。