第1章 私の異世界転生
どうやら、一緒に寝たけれど襲われてはいないらしい。だが、連れ込まれたのは事実だ。
「あの、どうして私がここに?」
「ん?私では不服か?」
「そういう意味ではなくて。」
「私の部屋で一晩共にしたという事実が欲しかっただけだ。そうでなければ、貴女は確実に付け入れられていた筈だからな。」
今でも、付け入れられていたと思うのだけど?抗議の目を向けると、無表情のままこう言った。
「今、この城に隣国の王子が来ている。とても、異性に興味がある様だ。関わりたかったか?」
「そ、それはちょっと。」
是非に辞退したい。本当に浮気者は嫌だ。
「そう言えば、自己紹介がまだだったな。私はルーチェス=サファイア。このウィンドミル国の王太子だ。」
「お、王太子!?」
「あぁ、そうだ。貴女の名を聞いても?」
「カオリ=アオイです。」
王太子の表情は無のままだけれど、言葉と態度は反比例している。では、どこがと言われると・・・まず視線。ずっと反らしてくれない。そして、優しく抱き締められている。
更に言うと、言葉だ。
「今まで想像もしたことがなかったが、愛おしいと思うのがこういうものなのだと初めて知った。」
元カレと付き合っていた時ですら、そんな言葉を言われたことは一度もない。ただ、こんな甘い言葉を吐くのに、表情は無のままだ。違和感半端ない。
雰囲気だけは見詰め合い抱き締められ甘い言葉を言われ・・・をぶった切ったのは、私の空腹を知らせる虫の音だった。
一瞬で顔が真っ赤になる。でも、王太子は笑うことなく体を起こしそれに倣う私の身体を支えてくれた。
「食事を用意させよう。メイドに支度をさせるから少し待っていてくれ。それと、私のことはチェスでもルーでも好きに呼んでくれ。」
その後、隣国の王子に付け入られたくなかったらと言葉が聞こえた気がした。
「貴女のことは、カオリと呼んでも?」
「は、はい。」
「では、少し待っていてくれ。」
再び触れる額のキス。まるで、付き合い立てのカップルみたいだ。無駄にイケメン過ぎて拒否できない自分が恨めしい。
ただ、無表情のままなんだなぁと思っていると、直ぐにメイドさんたちに囲まれ身支度のお世話をされてしまった。
戸惑いながらもメイドさんたちにお礼を言うと、「女神様から勿体ないお言葉を頂き感無量でございます」と泣かれた時にはどうしようかと思った。