第5章 プライド
騒いだのは、一人の令嬢とそのメイド。理由は、私と間違えて無理矢理連れ込もうとした様だ。幸いにも、誤解だと分かり事なきを得たのだけど、騒動は思ったより大きくなった。
「それで、早々に国に帰らせることになった。」
「それはそれは。」
「嬉しいか?」
「勿論。」
喜色を乗せた私の言葉に、ルー様は無表情のまま笑った。笑ったと分かったのは、以前と同じ声でだけど。
「連れ込まれそうになった令嬢は、あの王子見たさで災難に合ったというのに・・・。」
「王子見たさって、慕っていたと言うことですか?」
「ただの野次馬だ。令嬢には、正式に婚約者がいる。」
言葉にならない。野次馬しようとした令嬢の婚約者がこの事を聞いたら、どう思うのだろう?
「この事だけでなくとも、色々とあったと言うのに。」
「えっ?」
「カオリが現れる前に、連れ込まれそうになった令嬢はいる。そういうことは、自国で遣って貰いたいのだがな。」
不信感を露わにした物言いに、私はルー様の手を握った。
「でも、帰国されるのなら、もう安心ですね。」
「・・・帰国前に、一度でいいから顔合わせしたいと言って来た。そうすれば大人しく帰国すると。全力で却下したら、私のことを心が狭いとかほざいていたが、何言われても却下だと言ったら却下だ。」
「私も会いたくないです。」
明確に拒否の意向と告げれば、王子は駄々を捏ねたらしい。でも、王妃の体調不良が発覚して急遽帰国していった。
私が拒否したにも関わらず、駄々を捏ねたから罰が当たったのだと風評が広がった。
さて、一難去ってまた一難。
あの女の子は、高位の貴族なので王城には頻繁に訪ねて来る。そして、出くわせば絡んでくる訳で・・・。
更に、恐ろしい程にプライドが高く、今はオリバー様に食って掛かっている。表情一つ変えない敏腕小姑は、流石の通常運転だ。
でも、元々堪え性がないと言っていた女の子だ。オリバー様を突き飛ばし、私に掴みかかってきた。女の子が目を剥いて、私に悪態を付いている。
これは、令嬢にあるまじき表情なのでは?
「あの・・・そんな表情、意中の人に見せれば百年の恋も冷めませんか?」
私の呑気な言葉に、オリバー様は失笑し・・・女の子は固まった。
「私は兎も角、ルー様の一番身近な方にもその表情・・・宜しいのですか?」
女の子は、オリバー様を見ている。