第17章 鼠姫
「さっそく尻に敷かれているな。」
一王様と燦姫様が様子伺い―――――
いや改めてお祝いに御殿へいらしてくれた。
「おめでとう、二人共。」
「燦ねえも!おめでとう!」
「輿入れも三回目ともなると、おめでたくも何ともないよ!」
燦姫様は先日何と一王様に輿入れして三妃様となっていた。
「こっちはさっさと湖水亭に引きこもって隠居したかったんだけど、一王様(このヒト)がどうしてもって言うもんだからさ。」
ナンと私は分からない様に目配せする。
本当は燦姫様が「私とナンが心配だから後宮に残る手はないか」と一王様に掛け合ったらしい。
「何度でも婚礼はお目出度いものですよ。」
「奥方様になった途端、ずい分と言う様になったねえ〜」
「うふふ、私も嬉しいんです。姉上とお呼びしていいんですよね。」
「………!生意気な妹だよ!」
燦姫姉様はプイと顔をそむけた。
「あれは相当嬉しい時の態度だね。」
ナンが耳打ちした。
「ナン、聞こえてるよっ!
さーあ、新婚さんの初夜にお邪魔したね。
行くわよ、旦那様。」
「そうだな、長居は野暮だな。
――――また来る鼠姫。」
お二人の背中を見送った後、私たちは顔を見合わせた。
「聞いたか?」
「聞いた!『旦那様』だって!」
ひとしきり笑った後、シンと静まりかえる部屋の中。
庭の金木犀だけが饒舌に薫っている。
「急に寂しくなっちゃったね、一王様たち、ゆっくりしていけば良かったのに。」
「俺たちに気を遣ってくれたんだろ。」
「別に今夜が初夜ってワケでもないのにね。」
「………!本当にケロッと大胆なこと言うからなあ!俺の奥方は。」
「奥方!?」
初めてそう呼ばれて恥ずかしくなる。
「なーに変なとこで照れてるんだよっ。
………夏至の時はあくまでも『女王』と『太陽王』の初夜であります!」
「そ、そうだねっ!
……あらためまして、よろしくおねがいします。旦那様。」
「よろしくな。鼠姫。
……でも呼ぶのは今までどおり「ナン」でいいよ。」
「あ〜恥ずかしいんだ〜〜」
「そうじゃねえよっ!」
また耳まで真っ赤な顔をしているナン。
何も変わっていない。
「ふふっ、私も「ネズ」でいいよ。ずっと。」