第11章 床役
「これでよしっと!」
床は念入りにお掃除してチリひとつない。
上等な香を焚きしめた真っ白な敷布をピンと張って寝台に掛けた。端から一筋のシワもよらない様に両手で丹念に整える。
二つの枕は陽に当ててふっくらと膨らませて同じくいい匂いのする白布で包む。
枕元には冷たいお水と季節の果物が入った鉢。
王様がお酒をご所望されたらすぐお持ち出来る様に厨房に頼んであるし。
―――夏の終わりのあの日、
三王様と麗姫様の「床役」――――寝床の支度を命じられたあたしははりきっていた。
仕上げに朝摘んでおいた桔梗の花を部屋中に飾る。
(これで完璧!)
三王様って本当に難しいお方なんだな。
梅花も一個上の杏珠も「床役」の後クビになっている。
(あたしはそんなヘマしないもん!)
湯浴みを終えた麗姫様が入って来た。
「あら、いい香り。」
あたしは恭しく礼をする。
「沙良も湯浴みをしてらっしゃいな。」
「湯浴み?今朝済ませたので大丈夫です。」
「だめよ、仕事をして汗かいたでしょ。
汗臭いのは三王様に失礼よ。」
(危なかった……)
「す、すぐ行ってきます!」
「湯浴みをしたらこれを着て。」
真新しい衣を手渡された。
湯浴みをして婢女部屋で身支度を整えていると、麗姫様がやって来て鏡台の前に手招きされた。
「髪もキチンとしましょうね。」
麗姫様が自らあたしの髪を可愛らしく結ってくださる。
「あら?」
櫛を手にした麗姫様が足元の何かに気がつかれた。
夏至祭の翌日、ネズが持ってきた「コケモモ」の実だ。
(全部拾って食べたかと思ったけどまだ落ちてたんだ。)
「前にネズが来て散らかしていったんです。後できちんとお掃除しておきますね。」
「ネズ?」
「あ、燦姫様のところの娘です。」
話しながらお化粧をしてしまおうと、あたしはお白粉に手を伸ばした。
その手は後ろから伸びてきた麗姫様の手で軽く払われた。
(!?)
「お化粧はしないでいいわ。三王様はあまり派手な婢女はお嫌いなのよ。」
(本当にいろいろ難しいんだ……)
「さあ、仕上がった!もうじき三王様がいらっしゃるわ。早く行きましょう。」
麗姫様のお部屋に戻ると程なく三王様の従者が現れた。
「三王様のお越しだ。」
跪く麗姫様の後ろにあたしも膝をついて控えた。